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第58話

「レグラス様は朝一の仕事が入って早朝に出かけられたよ」  ソルはそう簡単に説明すると、「さぁさぁ」と移動を促してきた。二人に連れられてダイニングルームに到着すると、テーブルの上には既にずらりと料理が並べてあった。  その料理から漂う美味しそうな香りに、僕のお腹が小さく鳴る。  恥ずかしくて、ぱっとお腹を押さえていると、側に居たサグが嬉しそうな顔になった。 「お腹がちゃんと空いたんですね! 良かったです」 「え?」  確かに今まで胃の調子が良くなくて、空腹を覚える事は殆どなかった。それに食べても身体が受け付けない事も多々あり、酷い時には吐き戻す事もあった。  でも、今、確かにお腹が空いている。  思い返せば、先日もワンプレートディッシュも問題なく食べる事ができていた。  不思議だなぁ……と、僕が自分のお腹を押さえて考え込んでいると、サグが優しい声で言った。 「今までの無理に封じていた魔力が内臓を傷付けていたそうですよ。レグラス様に魔力をお渡しする事で、身体も整いつつあるのでしょうね。本当に良かったです」  しみじみとした様子のサグの言葉に、僕は漸く自分の身体の不調の原因を知った。  どうやら夜の恥ずかしい魔力移譲は、僕に更なる利点を与えたようだ。こうなってくると、あの恥ずかしさも我慢して、レグラス様とくっついて就寝するのも受け入れるしかないのかもしれない。  そう一人決意をしていると、ソルが椅子を引いて僕に声を掛けてきた、 「ほらほら、今日は予定がギッシリだって言ったろ! せっかくフェアルの調子がいいなら、食事時間を減らす訳にはいかないんだ。早くこっちに来いよ」  そうせっつかれて、僕はぱっと笑顔になる。  そうだ、折角身体の不調もなく食事ができるんだから、ちゃんと味わいたい!  僕はいそいそと椅子に腰掛けて、食事を開始した。  芳ばしい香りが食欲を誘う、パリパリのクロワッサンを千切る。ゆっくりと口に入れると、バターの濃厚な香りが口いっぱいに広がった。表面はパリッと、サクサクしているのに、中側はふんわりした食感で、堪らなく美味しい。  しっかりクロワッサンを堪能した後は、綺麗な形に焼かれたオムレツに手を伸ばす。そっとナイフを入れてみると、ほかほかとした湯気と共に、包まれていた具がとろりと溢れ出だした。チーズにジャガイモ、ベーコン、玉ねぎ……。具沢山だ。味もふんわりと優しく、朝にぴったりな一品だった。  夢中になって食べ進めていると、側で給仕に徹していたソルが口を開いた。 「嬉しそうに食うな。ホント、よかった」  見上げると、ソルの笑顔が返ってくる。彼にちょいっと指を差されて見てみると、美味しい食事にわくわくしている気持ちに同調したのか、わくわくが抑えきれずに蠢いている尻尾が見えた。  もう……。僕の尻尾ったら正直すぎるんだから……。

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