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第62話

「フェアル、大丈夫かい?」  サグに案内されて応接の間にやって来たダレン様は、僕の顔見るなり心配そうにそう言った。 「大丈夫です」  慌てて僕が返事をすると、ダレン様はツカツカと僕の側へと歩み寄り、顎に手を掛けた。 「うん、目の色も問題ないし、呼吸も正常だね。ほら座って」  促されてソファに腰を下ろすと、ダレン様も僕の隣に腰を下ろした。 「多分、すぐに魔力測定のための神官がやってくるからね。ささっと診察してしまおうか。身体の不調はない?」 「はい。レグラス様に魔力を吸って貰って、凄く調子がいいです。食欲も出て美味しく食べる事ができました」  僕の言葉に、ダレン様がうんうんと頷く。 「それは良いことだ。睡眠と食事は身体を作るための基礎だからね。さ、手を貸して」  差し出された掌に自分の手を重ねると、ダレン様はぐっと僕の手を握り込んだ。 「今の魔力残量がだいたい四分の一か……。これで身体の調子が良いなら、この魔力量をベースに進めていくか……」  自分の顎に指を当ててブツブツとダレン様が呟く。そして持参していたファイルに何かを書き込んでいると、扉をノックする音が聞こえた。 「ダレン様、神官様がお見えです」  丁寧な言葉遣いから察するに、サグが扉の向こうに来ているようだ。  そのサグの知らせに、ダレン様は書いていた手を止めて顔を上げた。 「そう……。神官はどちらに?」 「こちらにご案内しております」 「じゃ中にご案内してくれ」  扉越しに声を掛けると、僕の耳に顔を近付けて囁いた。 「緊張しなくて良いからね? 痛くないし直ぐに済むよ」  僕を安心させるように微笑むと、ダレン様は立ち上がって僕の向かい側の席へと移動した。  それと同時に扉が開き、サグが真っ白な神官服に身を包んだ三十代くらいの男性を中に案内してきた。 「初めまして。神殿より遣わされました、神官のニケと申します。本日は宜しくお願い致します」  優しげな笑みを浮かべて僕達に挨拶をした神官は、ダレン様に進められてソファに腰を下ろした。 「私は今回魔力測定を受けるフェアルの主治医ダレンと申します。彼の身元保証人となっているナイト公爵様から依頼を受けて、本日立ち合いをさせて頂きます」 「そうですか。それでは宜しくお願い致します」  にこやかに挨拶を交わすと、ニケ神官は僕の方に目を向けた。 「ではフェアル様、初めても宜しいですか?」 「……よろしくお願いします」  少し顔を強張らせながら口を開くと、ニケ神官はにこっと笑みを深めた。 「緊張しなくて大丈夫ですからね」  そう言うと、手にしていたバッグからつるりと丸い透明の珠を取り出した。  ーーあれが魔珠……。  トーマさんの話を聞いた後だけに、顔も身体も強張りが解けなくて、つい身構えてしまう。  端からみたら警戒心溢れる姿だったんだろう、ダレン様がクスクス笑いながら言った。 「ニケ神官、すみません。フェアルに悪気はないんです。ただ猫獣人の本能なのか、警戒心が強いみたいで……」 「ふふ……獣人ですからね(・・・・・・・)」  その時のニケ神官は、笑みを浮かべた柔和な態度のまま、冷え冷えと冷たい眼差しで僕をじっと見つめてきた。  そのニケ神官の変化に、正面に座る僕だけが気付き、思わず息を呑んだのだった。    

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