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第63話

「ではフェアル様、こちらの魔珠に手をかざして下さい」  柔らかな口調でそう言われて僕がはっ我に返ると、ニケ神官の瞳からさっきの冷たい光は消えていた。ただ、まとわりつく様なねっとりとした視線を感じて、凄く居心地が悪い。  チラリとダレン様に視線を向けると、彼はにこっと励ます様に微笑んだ。 「大丈夫だから、手を出してごらん」  ダレン様にもそう促されて、僕はおずおずと魔珠に手を伸ばした。触れるか触れないかの隙間を空けて掌をかざす。  その手に反応したのか、魔珠の中心に白い光がぽぅっと灯った。  光は何かを感知しながら、揺らめきながらその大きさを増していく。やがてその光は、魔珠の中で|六芒星《ろくぼうせい》の形となった。  六つある三角のうち、真上と真下を向く三角がそれぞれ黒色と輝く白に染まる。そして中心部の六角形部分が遊色効果の高いオパールの様に、多種の色を含む乳白色へと変化した。 「これは……」 「成る程」  魔珠を覗き込んでいたニケ神官は息を呑み、ダレン様は何かに納得したように頷いている。  二人の反応をぼんやりと眺めていた僕は、ふと胸のポケットに入れた黒い石の存在を思い出して、服の上からこっそりと触れてみた。  トーマさんから貰った石は、服越しにもはっきり判るほど熱を帯びている。僕の魔力を吸い込んだ時にはこんな反応はなかったから、吸収した魔力の量か、魔力の効果がその変化を|齎《もたら》したのかもしれない。  ーーどちらにしても、強い魔力を使ったって事かな。  チラリとニケ神官を盗み見ると、彼は魔珠に集中していて、僕を気にする様子はなかった。  それを確認して、僕は魔珠にもう一度目を向ける。  鮮やかな色に染まる六芒星が浮かぶ魔珠。その下の台座は、魔珠の反応が見やすいようにするためか、黒色のベルベットの布が掛けてあった。  魔珠にかざしたままだった手を引っ込めながら、然りげ無くそのベルベットの端を少し捲ってみると、緻密な線が描く魔法陣が刻まれた象牙の台が見えた。  ーーこれが呪の媒介?  どういう意味を持つ魔法陣なのか分からないけど、見える範囲の模様をしっかりと目に焼き付ける。そして二人に気付かれないように、そっと手を引っ込めた。 「……魔力測定の詳しい結果は、ナイト公爵様へのご報告で宜しいですね?」  ふと魔珠から顔を上げたニケ神官が、僕をチラっと見た後とダレン様へそう告げた。ダレン様も異存はないのか、ニケ神官の言葉に頷く。 「そうですね、それが良いでしょう」 「本日ナイト公爵様はご不在と伺っています。私は一度神殿に戻り、日を改めてご報告に上がりましょう」  ダレン様にそう言うとニケ神官は立ち上がり、僕へ向き直った。 「フェアル様、大変素晴らしい結果が出た事をお喜び申し上げます。また是非お会いしましょう」  慇懃に言い切ると、彼は一礼して足早に去っていった。

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