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第64話
二ケ神官が去った後、ダレン様は膝の上で指を組んで僕をじっと見つめた。普段の優しげな笑顔が鳴を潜めた真面目な顔に、ふと不安が湧き上がる。
ーー魔力測定の結果が良くなかった? でも二ケ神官は「素晴らしい結果」って言ってたし……。
そわそわし始める尻尾を宥めながら考えていると、ダレン様は徐ろに僕に手を差し伸べた。
「……フェアル、胸のポケットの物を渡しなさい」
そう言われてギクリと身体が強張る。探るようにじっとダレン様を観ていると、彼は大きなため息をついた。
「午前中にトーマが来ていたね? では、それ は彼から貰ったの?」
気付かれた……。
ダレン様の言葉は、憶測でのものではなく、確信しているように聞こえる。僕はコクンと唾を飲み込み、口を開いた。
「…………トーマさんが、創世神の神官がアステル王国からの留学生に奴属の呪を掛けていると言っていました。それは本当ですか?」
「ーー本当だよ」
否定や誤魔化しの言葉が返ってくるのかと思っていたら、まさかの肯定の言葉。僕は驚きに目を見張った。
「彼らは獣人を人間だとは認めない。留学生の魔力測定を隠れ蓑にして奴属の呪をかけ、長い間使い捨ての駒のよう彼ら酷使していたのは確かだ」
ダレン様は僕に差し出していた手を一度引っ込めると、ゆっくりと首を振った。
「隠蔽されていたその事実を突き止め、創世神の神官達を一斉に処分したのは、ここ十数年の事。トーマやガラガント達が留学で来た時は、まだこの奴属の呪が横行していた時だった」
「トーマさん達は祖国に帰りたくても帰れなかたんですか?」
「そう。しかし彼らは閣下と同期生だった。そこからその奴属の呪の事が閣下に伝わり、留学生を守るために閣下が動いたんだ」
その言葉に、僕は口を噤む。
ーーレグラス様が動いた。
そして創世神の神官を一斉に処分したなら……。
ならば、今はもう留学生に奴属の呪を掛ける神官はいない訳で……。
その事をトーマさんは知らなかったはずがない。じゃあ何で僕にあんな事を言ったんだろう?
黙り込んだ僕を覗き込むようにして、ダレン様が言った。
「フェアル。混乱するのは分かるけど、まずその石を渡しなさい」
少し厳しい口調で言われて、僕はのろのろとポケットを探り石を取り出す。そしてもう一度差し出されたダレン様の掌にそれを乗せると、彼はそれを指で摘み上げ光にかざした。
「……これは種だ。魔力を吸い込んで発芽する、特殊な種なんだ」
「種……ですか?」
「これが発芽すると、持っている人間を奴属させるんだ」
その言葉に、僕は言葉を無くしてしまった。
ーーじゃあ、創世神の神官じゃなくて、トーマさんが僕に奴属の呪を掛けようとしたってことなの……?
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