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第68話
「……は、ハズレ……」
その一族の中に、生まれる可能性があるハズレ者である『最弱者』……つまり僕だ。ガラガントさんも、コモドドラゴンの一族の中で蛇の獣人というハズレ者だった。
「魔力測定するために必要な魔珠は、創世神の神殿が独占していて、アステル王国が手に入れる術がない。だから、アステル王国は留学生として、ハズレ者と呼ばれる者を帝国に送るんだ。魔力測定を受けさせるためにね」
「あ……」
僕は小さく声を上げた。
そうだったのか……。
帝国からは皇族が留学生としてやってくるのに、何故アステル王国はハズレ者を留学させるのか不思議だったんだ。
帝国での獣人の扱いは最低最悪と聞いていたから、そのせいかと思っていたけれど、ハズレ者の受け皿にされて帝国は腹を立てないのかな……とも思っていた。
考え込む僕に、トーマさんがレグラス様の説明を引き継いで続けた、
「もし留学生の中に使徒がいれば、創世神が手放すはずがない。あの宗教は人族が唯一として謳っていますから。なのに余所の宗教の、しかも人族以外に神の使いが現れては外聞が悪い。だから魔力測定の時を狙って、留学生全員に奴属の呪をかけていたんです」
「相変わらず胸糞悪い奴らですね……」
今まで黙って話を聞いていたダレン様が、苛立たしげに呟く。
トーマさんはちらりとダレン様を見た後、そっと瞑目した。
「胸糞悪さの程度は創世神も、アステル王国も、ラジェス帝国も大して変わりがないのでは?」
その言葉に、レグラス様とダレン様は目を合わせる。
トーマさんは目を開けて、二人を睨むように見た。
「創世神の神官は、アステル王国からの留学生を奴属させ、教典を守ろうとした。アステル王国は、創世神の企みに気付いて、留学生が使徒だった場合を考え、奴属の呪を二人分引き受けさせるために『贄』を同伴させ、留学生を守ろうとした。ラジェス帝国は、留学生を取り込んで、その魔力の多さを有効利用して帝国を守ろうとした」
ふと口を噤み、その瞳を揺らした。
「誰も……私たち を守ってはくれない……」
そのポツンとした呟きに、僕は胸が苦しくなった。
そっと自分の胸を押さえていると、レグラス様が宥めるように僕の頭をぽんぽんと撫でた。
「奴隷紋の事を何故言わなかった? 言いさえすれば、何らかの手段を考える事もできたはずだ」
「確かに、言えば私は守られたのでしょうね。でもネヴィ家に身柄を抑えられたままの、私の婚約者はどうなります? 長く私の帰りを待ってくれていた彼を、誰も守れはしない」
そう言うと、トーマさんは僕をじっと見つめた。
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