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第70話
僕を見るアイスブルーの瞳が、酷く冷たく見える。
僕は言葉を紡ぐ事も出来ずに、ただレグラス様をじっと見つめた。
レグラス様は大きく息を付くと、抱擁を解き、すっと立ち上がった。
「……仕事が残っている。ダレン、後は任せる」
「やれやれ、もう、閣下も大人げない……。分かりましたよ。でも、これは貸しですからね!」
そう言うダレン様を一瞥して、レグラス様も部屋を出ていってしまった。
その後ろ姿は、僕を拒絶しているようにも見えて、酷く狼狽えてしまう。
帝国の、このナイト家に来てから今まで、これほど冷たい態度をレグラス様にとられた事はない。
振り返りもせずに立ち去った彼に、悲しくなって僕は俯いてしまった。
「フェアル、そんな悲しそうな顔をしないで」
ダレン様が慰めるように言う。でも僕は顔を上げることができなくて、無言で首を振った。
「フェアル。君がトーマの事を気にする気持ちは分かるよ。なにせ自分の実家か絡む事でもあるからね。ただ……」
そこで言葉を切ると、ダレン様は僕の隣の席へと移動してきて、僕の顔を覗き込んだ。
「ただ、閣下の気持ちも理解してあげて欲しいんだ」
「……レグラス様の気持ちって何ですか……………」
俯いたまま、ポツリと返す。
同期生だったトーマさんを、あんなに冷たく突き放すレグラス様を、理解するなんて僕にはできない。
そんな僕の姿に、ダレン様はそっと苦笑した。
「フェアル、閣下にとって、トーマは学院の同期生……友人だったんだ。だからそこ、学院時代にトーマに相談されて創世神の神官達を一掃したんだよ。なのに、今回はその大事な友人に頼って貰えなかった。その閣下の気持ち、分かってあげてくれないかな」
そう言われて、僕はぱっと顔を上げてダレン様を見た。
「友達……」
「そう、友達。閣下がアステル王国に留学する事は、早くに決まっていたから、彼はトーマやガラガント達と積極的に交流を持って、アステル王国を知ろうとしたんだ。その交流の中で友情を築いた。だからこそ留学後も彼らと小まめに連絡を取って、君を迎える準備を整えたんだ。それ程信頼していた友人に、頼って貰えなかったんだ。どれほど無念に思っていることか……」
ダレン様の言葉に、僕はレグラス様の気持ちに気付かされ、唇を噛み締めた。
僕の方が、全然周りが見えてなかったんだ……っ!
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