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第71話

「まぁ、あそこで感情を出してしまうあたり、閣下もまだまだ未熟だね」  呆れたような顔になったダレン様を、僕は眉尻を下げた情けない顔で見上げた。 「僕……レグラス様を怒らせてしまいました……」  ネヴィ家がトーマさんにやった事の罪悪感が先に立ち、レグラス様の気持ちを全然理解しようとしなかった自分が悪い事は分かっている。  でも、レグラス様に嫌われたかもしれない状況が悲しく、そうさせた自分が恨めしかった。  そんな僕に、ダレン様は「はて?」と不思議そうな顔をした。 「怒る? 閣下が? 君に?」  大きく首を傾げて僕を見ていたダレン様は、何かに気付いたのか「あ!」っと大きな声をあげた。 「さっきの閣下の態度、君に怒ったと受け取ったんだ!?」  そう言うと、僕の肩をガシッと掴んだ。 「違うからね!」  その慌てた様子に、今度は僕がぱちりと瞬く。 「違うって……。でも凄く冷たいお顔でしたし、あんな風に立ち去っていくなんて、余程お怒りだったからなんじゃないですか?」 「確かに、閣下は怒っていたけれど、あれは君に向けた感情じゃないんだよ」  ダレン様の言葉が信じられなくて、僕の耳は再び水平に伏せてしまった。僕のじっとりとした視線を受けて、ダレン様は困ったように口元を歪ませた。 「ううん……感情の表現が苦手な閣下と、感情を読み取るのが苦手なフェアル…………。混乱しか生まない二人だな………」  小さく呟くと、ダレン様はやれやれとばかりにため息をついた。 「あのね、フェアル。よく考えてごらん。閣下は君を何よりも大事にしている」 「それは体調を改善するのに、僕の魔力が適しているからですよね」  いわば、持ちつ持たれつの関係、ダレン様の言葉を借りるなら『相互利益』の関係だ。だからこそレグラス様は、僕を大事にしてくれているのだと思う。  そう言うと、ダレン様は掌で顔を覆って顔を上に向けた。 「え、そこから? 明日には学院に編入するっていうのに、閣下って一番大事な言葉を伝えてないの?」  暫く固まったように動きを止めたダレン様だったけれど、何か思いついたのか顔から掌を外して僕をじっと見つめた。 「あのね閣下が怒ったのは、君が、自分がこの世に生まれた事が諸悪の根源みたいに言ったからだ」 「でも、事実です。猫の獣人の僕がネヴィ家に生まれてしまったから、僕を排除したくて……」 「ーーフェアル。次、またそんな言葉を使ったら、私も怒るよ」  珍しく怒りを含んだダレン様の声に、僕は思わず口を噤んだ。

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