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第72話

「いいかい? 私は国一番の魔法医師だ。当然ながら引く手あまたで、患者を選ぶ事ができる立場だ。例え閣下の大事な人と言えど、優遇する理由にはならない。それでも君の診察を引き受けるくらいには、君の事を気に入っているんだよ。そんなに可愛がっている子に、『自分がこの世に存在した事自体が悪』なんて言われたら、流石に哀しいし腹が立つ」 「…………」  確かにダレン様には随分よくして貰った。  体調に関してのアドバイスも、レグラス様との関係をよくするための助言もたくさん貰った。  だからこそ、その言葉は彼の真意なのだと分かる。  本来なら『ごめんなさい』と言うべきなんだけど、ダレン様の厳しい口調に僕は口を挟めずに俯いた。 「閣下も私と同じ……、いや、それ以上に君を大事にしている。だからこそ、君にそんな言葉を言わせたネヴィ家に対しての怒りが抑えきれなかったんだ。閣下が怒っていると感じたなら、それは君を蔑ろにしたネヴィ家に対するものだ」 「……でも……」 「君もトーマも、誰にも頼らず、誰にも相談すらせずに、最悪の道を進もうとする。君らにそう選択させてしまう奴らに対して閣下は怒ったんだ。……私の言う意味が分かるかい?」  確認するように言うと、ダレン様は僕の顔を覗き込んだ。  正直に言うと、ダレン様の言葉を理解するのは難しい。  何故ダレン様は、僕がレグラス様の『特別』な人の様に言うんだろう。  ダレン様の言葉の前提は、僕がレグラス様にとって『特別』である事、だ。  でも、彼から大事にされているとは思うけど、そんな風に告白めいた事なんて言われたとは………………。  そこまで考えて、僕の脳裏にレグラス様の言葉が蘇った。 『私の側にいて欲しい』 『君は、私の側にいるだけでいい。役に立つ立たないは関係ないんだ』  あ……あれ?  僕はぱちりと瞬く。  あれあれあれ…………。  ぱっと顔を上げると、何故かほっと安堵の息を付くダレン様が視界に入ってきた。 「その様子だと、ちゃんと閣下は言葉にしたみたいだね」  そして目を緩めると、僕に向けて優しく微笑んだ。 「フェアルは閣下のこと、好きかい?」  その言葉を心の中で反芻する。  ーーレグラス様のことが好き?  そう問われると、否定なんてできない。  僕はラス様にも、レグラス様にも大事にして貰った覚えしかない。そんな彼を嫌いになんてなれない……。  むしろ好きだかこそ、嫌われたと感じて悲しくなったんだ。  慎重に頷くと、ダレン様は晴れやかに笑った。 「それは良かった! なら君がする事はただ一つ」  その確信めいた言葉に、僕は耳を傾ける。 「閣下にちゃんと言うんだ。『貴方の事が好きです』って。態度で伝わる気持ちもあるけど、やっぱり言葉で想いを告げて貰う事ほど嬉しい事はないからね」  そう言われて、僕は戸惑いつつも頷くしかなかった。

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