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第73話

「あ、そうだ。魔力測定の結果は、神殿から連絡あるからね。楽しみに待っておくといいよ」  ダレン様は何かのついでの様に軽く言うと、すっと立ち上がった。 「お帰りですか?」  慌てて僕も立ち上がると、ダレン様はゆっくりと首を振った。 「いや。私はトーマの診察をしてくる。奴隷紋とやらが魔力で刻まれたものなら、私の治療の範疇だからね。彼とも長い付き合いだったから、それなりに情があるんだよ、私にも」 「…………」  寂し気なダレン様の様子に、返す言葉がない。  視線を落として、部屋を出ていくダレン様を見送るともなく立ち尽くす。  パタンと扉が閉じる音に、僕はのろりと視線を上げた。  誰もいなくなった応接間を見渡す。  本来なら魔力測定の後、昼食を挟んで午後の予定が入っていた。  でもトーマさんの一件があり、皆、今それどころじゃないんだろう。この部屋に誰かが来る気配は全く無かった。  静かなその部屋で、僕はダレン様に言われた事を反芻する。  ダレン様は、レグラス様に『好き』と伝えろって言った。その意味はよく分かる。  はっきり『好き』と好意を伝えてもらえるのは嬉しいし、相手の気持ちが確信できるのは心強いもの。  今になって振り返ると、レグラス様は僕に沢山の言葉と、優しさを与えてくれていた。  それなのに、僕はその意味を深く考える事もできなくて、「身元保証人としての義務」とか「体調を改善するために魔力が必要」とか、勝手にレグラス様の優しさに理由をつけていたんだ。なんて失礼な事をしてきたんだろう。  そして今回のトーマさんの件もそう。僕を大事にしてくれた人に対して、「自分が生まれなければ良かった」みたいな事、言うべきじゃなかった。  こんな、配慮も相手を気遣う事もできていない僕が、レグラス様に好意を伝えてもいいのかな……。  ダレン様の雰囲気に乗せられて頷きはしたものの、やはり悩んでしまう。  そこまで考えて、僕は俯き気味だった顔を勢いよく上げた。 「悩んでるだけじゃ、何も変わらないじゃないか」  ぐしぐじと悩む自分を振り切る様に、思いを言葉にして出す。  アーティファクトを外すのだって怖かったけれど、外してみれば新たに道は開けた。悩む前に行動を起こしたって悪くないはずだ。  まずは一歩を踏み出そう。今は弱くて守られてばかりの僕だけど、ここをスタートにして、レグラス様の側に居ることが許されるくらいの人間を目指したって良いはずだ。 「ちゃんと、自分の想いを伝えよう」  そう決心してみると、少しだけ気持ちが楽になった。

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