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第74話
「……とはいえ、レグラス様はお仕事に向かわれたんだよね……」
怒った雰囲気で部屋を出ていったレグラス様を思い出す。
次に顔を合わせるのは少し勇気がいるけど、言うと決めた以上後には引きたくない。
夜の魔力移譲をする時にはお戻りになるだろうから、それまで勉強でもして気を紛らわせよう。
そう思い付いた僕は、顎に指を当てて何に手を付けるか考えた。その時ふと思い出す。
『貴方の魔力はとても多くて、強いわ。いつかその魔力について知る必要がでてくると思うの。その時に読んでご覧なさい』
そう言われて、母様に手渡された本の存在を。
あれを頂いた時の僕はまだ幼くて、中をしっかり読む事は出来なかったし、大きくなってからは仕事に追われて読む暇がなかった。
「僕の魔力をよく知っていた母様が選んだ本だもの。まず、あれから読んでみよう」
お腹も空いていないし、皆多分忙しいだろうと判断して、僕は早速行動に移すことにした。
「あ、あった!」
僕の部屋にある、クローゼットの奥に仕舞い込まれていた古ぼけたトランクを引っ張り出す。留め金をぱちんと外してゆっくりと開けると、中にはアステル王国での数少ない私物だった物が収められていた。
何度も繕いながら大事に着ていた服は、こうして見ると見窄らしい。でも、それを捨てることなく、こうして取っていてくれたナイト公爵家の人達は、本当に優しいと思う。
丁寧にそれらを取り出し、一番下に隠すように入れていた本を引っ張り出した。
タイトルは何も書かれていない、白い布表紙のその本は、何年も手入れされてなかったのに、真新しい本のような美しさを保っている。
その本を手に、僕は先日見つけた図書室へと足を運んだ。
キィっと微かに軋む扉を開けて中に入り込む。今日もこの場所には人影はなく、ひっそりと静まり返っていた。
ここでの目当ての場所は一つ、司書用のカウンターだ。
あのカウンター下の、三方を囲まれた空間はとても落ち着けて、居心地が良かった。あそこで本を読もうと決めていたんだ。
「誰も居ないよね」
カウンターを見つけた僕は、辺りを見渡し確認すると、いそいそとカウンター下に潜り込む。少し膝を抱えるように座り、その膝の上に本を乗せてそっと開いた。
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