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第77話

目を閉じる間もなく、ちゅ……、と触れるだけの優しい口づけが施される。 僕は何度か瞬き、すぐ目の前にあるレグラス様の顔を見つめた。僕の頬を覆ったままのレグラス様の手がゆっくりと動いて、そのまま頬を撫でる。 「ありがとう。君の好意を嬉しく思うよ」 そしてゆるりと目を細めた。 「学院に編入して、君を取り巻く世界が広がれば、その気持ちも変化するかもしれない……とは思っているが」 そのレグラス様の言葉に、僕は驚いて大きく首を振った。 「か……っ、変わりません!」 いつも側にいて欲しいと思う気持ち、僕の事を見て欲しいと願う気持ち。でも見られると、ドキドキして落ち着かなる感じ。 ドキドキしてるのに、触れて欲しいと願ってしまう。 恥ずかしいけど、嬉しくて。嬉しいけど、逃げたくて。 逃げたいけど、やっぱり側に居たいって思う、不思議な気持ち。 それが変わってしまうなんて思えない。 するとレグラス様は、ゆっくりと口角を上げて笑んだ。 「そうか。だが、君の世界が広がるのは良いことだ。たくさんの事を学び、たくさんの人間と交流を持つといい」 「ーー僕の気持ちが変わってもいいと思っているって事ですか?」 「違う」 レグラス様はきっぱりと言った。 「君の気持ちが変わらないように私も努力するし、万が一気持ちが変わっても、もう一度君の気持ちを掴んでみせる。何があっても、君が私を選ぶようにしてみせるから、安心して世界を広げるといいという話だ」 その言葉に、僕は少し顔が熱くなるのを感じた。 ひょっとして僕が思う以上に、僕はレグラス様に大事にして貰っているんだろうか? かっかと火照頬を自分の掌で押さえていると、レグラス様は僕の頭にぽんと手を乗せた。 「それから、トーマの事は気にしなくていい。奴隷紋はダレンが解除した。ナイト公爵家の者を傷付けようとした責任を取る必要はあるが、ネヴィ家の指示だった事を証言すれば、情状酌量も加味して減刑できる」 「……はい」 「ネヴィ家にも制裁を下したいとは思うが、君がアステル王国のネヴィ家から留学に来た事は既に公表されている。処罰をすれば、君のこれからの学院生活にも影響が出るだろう」 確かにそうだ。 隣国から留学で来た学生の一族が、帝国貴族に害を与えようとした形になるんだ。 どう頑張っても、穏やかな学院生活にはならないだろう。 でもネヴィ家がトーマさんにした事は許せないし、ナイト公爵に手を出した事は確かだ。絶対に無かった事にはしたくなかった。

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