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第78話

「ネヴィ家に関しては一旦保留にする。二年の君の留学期間が終わった後に制裁を下すことになるだろう。それまでは向こうを泳がせようと思う」 その言葉に、僕はこくりと頷いた。 「僕にも関係あることだから、お手伝いさせてください」 「君はまず学院での生活を謳歌すればいい」 「でも……」 僕の生家の事なのに……と言い募ろうとした僕の言葉を、レグラス様はもう一度口付けて遮った。 「それに君が自由にしていれば、きっとまた向こうから手を出してくる。それを利用して証拠を掴むつもりだ。言い方は悪いが、君が自由に過ごすだけで囮となる。それだけで十分だ」 そう言うと、僕の肩に手を回して歩くように促してきた。 「さぁ話はここまでだ。明日からは学院へ通うのだから、今日は早めに魔力移譲を済ませて、君は休まなければならない。取り敢えず食事を先に済ませよう」 「ーーはい」 ちらりとレグラス様を見て返事をすると、僕は彼と並んで歩きだした。 きっとレグラス様は、この件に僕を関わらせるつもりはないんだと思う。それなら僕は囮の役を、しっかり果たそうと考えたのだった。 食事の後、レグラス様は途中だった仕事の処理のため、一度執務室へと戻っていった。 僕も部屋へ戻ると、サグが準備していてくれたお風呂に入る。 お湯に浸かってぼんやりと明日の事を考えていた僕は、「あ」と声を出してしまった。 「そうだ、金華猫(きんかびょう)の事、伝えてない!」 母様から貰った本に記されていた、その名称。 それは極めて稀に生まれる可能性のある、魔力豊富な猫獣人の呼び名だった。 『その獣人は、極めて稀にしか生まれず、生まれ出ても周囲から浮く外見のため迫害を受けやすい。また、幼少時よりずば抜けて魔力が多いため、身体を損ないやすく、短命である事が多い』 そう表現されている『金華猫』だけれど、その特徴が僕の外観と驚くほど合致するんだ。 『月の光を紡いだような銀の髪。蒼天を思わせる青い瞳と、深緑の森を思わせる緑の瞳を併せ持つ。月光を取り込みながら成長を果たすその姿は、華奢でありながらも、夜の精霊の化身のような神秘さを纏っている』 神秘さっていうのは違うけど、色彩なんかはそっくりだ。 でも何よりも僕の目に焼き付いたのは、次の一文だった。 『金華猫は魔力相性の良い人間の伴侶を持つ事で、夜を統べる王となる』 この意味が僕にはよく分からなくて、レグラス様に聞いてみようと思っていたのだった。

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