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第82話

「金華猫の表現に、『月光を取り込みながら成長を果たすその姿は、華奢でありながらも、夜の精霊の化身のような神秘さを纏っている』と書いてあったそうだ」 「……なるほど」 私の言わんとする事を理解したのか、ダレンがまじまじとフェアルを見つめる。 「その月光を取り込んで成長を果たす、という部分。魔力回復に関しても当てはまるのか診てくれ」 「今日は今のところ、どのくらいフェアルから魔力を貰いました?」 「五分の一を残して、後は吸い取った。それから今まで二時間程、こうして月の光を浴びている状態だ」 そう伝えると、ダレンはベッドサイドの椅子からすっと立ち上がった。 「閣下、少し失礼しますね」 そう言うと、ダレンはフェアルの手首をそっと持ち上げる。脈を測るように指を添わせ、それから魔官があるとされている胸の部分をじっと凝視した。 「月の光をどのくらい浴びたと言いました?」 「二時間だ」 「……成る程、これは面白い事になっていますね」 薄っすらと笑みを零したダレンは、フェアルの手をシーツの中に入れると、窓際に歩み寄りシャッと音を立ててカーテンを閉めた。 そしてゆっくりと振り返ると、実に楽しげな顔を見せたのだ。 「閣下、今、フェアルの魔力は半分以上回復しています」 「っ!」 その言葉に、私は思わず言葉を飲み込んだ。 魔官に溜まる魔力は、一日をかけて回復するものだ。それがたった二時間で半分も回復しただと? 私も目を凝らしてフェアルの胸の部分を注視した。 今、私はフェアルの魔力を吸い取った後だ。自分の身体に混じる彼の魔力が邪魔をして、フェアルの魔官に残る魔力量を正確に見ることができない。 それでも、私の目にも明らかにフェアルの魔力が回復しているのが見て取れた。 「魔力を吸い取る時間帯と量を変えるべきか……」 フェアルは、まだ魔力制御ができない。その状態で回復しつつある膨大な魔力を持つことは、彼が恐れる魔力暴走を引き起こす可能性を示唆していた。 「それも検討する必要がありますが……」 私の呟きに、ダレンは頷いた。 「月光を浴びて回復したフェアルの魔力、昼間とは性質が変わってますよ」 「ーーなに?」 ダレンの言葉に、私は意味を測りかねて眉を顰めた。 「魔力測定の結果を見れば、もう少し詳しくお伝えできますが……。今の状態では、ただの憶測になるので、お伝えしかねますね」 魔法医師であるダレンは、同じく魔法師である私よりも、個人が持つ魔力を診る能力に()けている。その彼がそう言うのなら、これ以上聞いても意味はない。

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