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第84話

馬車に揺られながら、僕は隠しきれない緊張で顔を強張らせていた。そんな僕を乗せて、石畳の街の通りを馬車が走り抜けていく。 窓から流れ行く景色を見ながら、僕はゆっくりと深呼吸を繰り返した。 今日から僕の学院生活が始まる。 レグラス様も学院で教鞭を取るらしく、共に学院に通う生活となるんだけど、今日は僕より早く屋敷を出ていた。 だから、今日僕と一緒に馬車に乗ってくれたのは、従者のサグとソルだった。 二人も僕と同じく学院の制服を着ている。違いがあるとすれば、ブレザーの胸元にあるエンブレムの色が赤という事。 これは高位貴族の従者や侍女の色なんだそうだ。身分を明確にする意味もあるんだろうけど、緊急時はこのエンブレムの色の者の行動は妨げはならないとされている。 ちなみに、僕も含めた貴族子息の色は金色だ。 ちらりと自分の胸元の金色のエンブレムを見下ろす。 貴族子息ではあるけれど、僕は今まで学院に通うどころか、ちゃんと人付き合いをした事もない。 ネヴィ家では僕は厄介者だったから、従僕やメイド達にも一線を引かれていたし。 だから色んな意味でドキドキしていた。 「なぁ、フェアル。お前、随分緊急してねぇ?」 その時、ソルが口を開いた。 僕ははっと我に返って向かいに座るソルに目を向けると、心配そうにこちらを見ていた。 「う……うん、ちゃんと覚悟したつもりだったけど、やっぱり色々考えちゃって……」 正直に気持ちを吐露すると、ソルは軽く肩を竦めた。 「気持ちは分かる。貴族なんて、何考えてるか分かんねぇヤツらばっかりだからな。でもプライドはめちゃくちゃ高い。その分バカげた行動を移すヤツは殆どいないぞ」 「そうなの?」 「ああ、貴族はああ見えて狭い世界で生きてる。学院を見てみろ、貴族の子息達ばかりだ。昔からの顔馴染ってことだろ?バカな行動をしようもんなら、ほぼ全員がそれを知る事になる。それだけでも恥なのに、大人になってそんな事を昔話にでもされてみろよ。行動の内容によっては人生詰むわ」 確かに、帝国では貴族のご令息ご令嬢は、全員学院に通う義務がある。ある意味、将来の社交界の縮図と言っても過言じゃないたろう。ソルの言う意味も何となく分かる。 「そうだね」 僕は少しだけ息がしやすくなった感じがして、ほっと息をついた。 「そうです。それに私達が常に側におります。必ずフェアル様をお守りするのでご安心下さい」 サグも力強く言い切ってくれて、僕は思わず笑みを浮かべた。 「ま、いざとなりゃ、レグラス様の所に駆け込めば良いんだ。冷酷無残なんて評判の閣下に刃向かえるヤツなんて、ガキの中にはいないさ」 ニヤッと笑うソルに、それってレグラス様の職権濫用になるんじゃないのかな?と思ったから、僕は曖昧に頷くだけに留めた。

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