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第85話

 学院の正面にある鉄製の大きな門扉を潜り、更に馬車で暫く進むと、歴史を感じさせる、趣の建物が見えてきた。  玄関ホールを中心に左右に伸びる建物は三階建。元は白壁だったろう外観は、流れた年月と共にやや黄色っぽく変色している。所々に蔦が壁を這い、学院というより古い博物館や美術館のような雰囲気だった。  馬車を降りて、僕は目の前の建物を見上げた。 「……学び舎らしくない外観だね?」 「そう? アステルでは違う?」  不思議そうにソルに返されて、僕はいつの日かちらりとみた自国の学園を思い出してみた。 「うん。貴族の威信をかけているのか、常に美しい外観だったように思う。もちろん力強い獣人がうっかり破壊しないように頑丈な造りだったけど」 「へぇ……。それって、獣族の魔力が多いからだね」  そうソルは言うけど、僕にはその意味がよく分からない。  首を傾げていると、サグがソルをパシッと叩いて言った。 「そんな雑な説明じゃ分かるわけないでしょう、まったく! フェアル、人族は獣族と比べると魔力が少ない者が多いんです。だから、六大精霊の力を借りて魔法を展開するんですよ」 「六大精霊?」  更に良くわからなくなって、僕がオウム返しに呟くと、サグはにこっと微笑んだ。 「火風水土光闇の精霊の事です。精霊の恩恵を受けている我々は、各精霊への畏敬の念を忘れません。植物は土の精霊の眷属ですから、排除する訳にもいかず、壁の蔦はそのままにしてあるんですよ」 「それじゃ、学院内は草木が生え放題?」 「そこは土属性の魔法師達がちゃんと整えてます」 「へぇ……」  初っ端からアステルとの違いを感じ、僕は目を白黒させる。  そんな僕を可笑しそうに見つめ、サグは続けた。 「そんな点も授業に含まれてますから、心配しなくて大丈夫です」  励ますように言われて、僕はコクンと頷いた。  サグとソルと共に建物に入ると、ホールに学院の職員らしき人が僕達を待っていた。挨拶をすると、丁寧に学院長の部屋に案内される。 「ようこそ、帝国の学院へ。私は学院長のバルバだ」  僕達を出迎えた、顰めつらしい顔の40〜50代くらいの男性を見つめて、僕は頭を悩ませた。  ……。えっと、ここ、学院長室……だよね?  何故なら、この部屋全体に淡い緑色の、きらきらと輝く光の帳が垂れ下がっていたのだ。  そして学院長の方には、僕に向かって手を振る小さな小さなモグラが乗っかっていた。  

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