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第93話
「あ、校舎裏にも何か建物っぽいものが見えるな」
校舎の一階の探索を続けていると、窓に絡まる蔦の隙間から外を見ていたソルがそれ気が付いた。その声に僕も足を止めて、ソルの横に立って窓の外を覗く。
するとソルの言葉通り、校舎から少し離れたところに二階建ての建物らしきものが見えた。その建物の真横には柵で仕切られた広場もある。広場は土が剥き出しとなっていて、ぱっと見、乗馬場の様にも見えた。
「気になるなら、あっちの建物も探索しておく?」
「はい」
ソルの提案に、僕はコクリと頷いた。
僕達獣族は、自分の元となる動物の習性にどうしても引っ張られやすいという性質を持っている。
僕の場合は、勿論「猫」だ。その猫の習性が、知らない場所、知らない建物のに対して「警戒しろ」と警鐘を鳴らしている。
人と動物との違いは、理性で本能を押さえることができる点だけど、その状態が不快であることには変わりがない。
可能であればさっさと問題を解決して、その不快感を取り除いてしまいのだ。
僕達は外に出るための扉を探すために歩き出し、程なくして目的のものを見つけた。
歴史ある校舎に相応しく古めかしい印象のその扉は、濃い茶色の木製で両扉となっている。どちらの扉も上半分にガラスがはめ込まれていて、外側に格子が取り付けられていた。
この校舎は建物全体がみっしりと蔦に覆われているというのに、この扉だけはなぜか蔦が伸びておらず、窓から外の景色を見ることができた。
「あーやっぱり建物だな。大きさ的に別館かな?生徒の人数的に、校舎の中の教室だけじゃ足りなさそうだもんな」
「特別学科などの受講生徒が少ない授業用でしょうか?」
二人がそう話し合っている横で、僕はその建物に目を奪われていた。二階建てのその建物は校舎と呼ぶより、邸宅と呼ぶ方が相応しい建物だ。
なんの変哲もない、至って普通の建物なのに、僕の好奇心がうずりと騒めく。
何故かその建物に惹きつけられた僕は、取っ手を掴んで扉を開くと、そのまま誘われるようにふらりと一歩を踏み出してしまっていた。
「フェアル様⁉」
「フェアルっ!」
驚いたような二人の声に、僕はびくんと肩を竦めて足を止める。その時になって我に返った僕は、慌てて二人の方を振り返った。
僕の目に映るのは、二人が居る校舎のはず……だった。
でも、あるはずの建物は影も形もなく消え去っていて、僕の目の前には遠くまで見渡せる程に広い草原が広がるばかりだった。
突然の事に言葉をなくした僕は、ただぽかんと口を開けて目の前の景色を眺める。
「えっと……、ここ何処?」
草原の遥か向こうには高い山々が連なっていて、その山頂はうっすらと雪化粧を施している。上に目を向ければ雲一つない淡い水色の空が広がり、実に牧歌的な眺めとなっていた。
呆然と景色を眺める僕の耳に、バズの言葉が蘇る。
『精霊の中には悪戯好きもいてね、時々迷子になる生徒がいるんだよ』
「ーーこれの事?という事は、僕って今、迷子の最中なの?」
受け入れ難い事実に、僕はぱちぱちと何度も瞬きを繰り返してしまった。
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