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第11話 初めての客
2ー1 戦闘開始
その客が娼館『シャトウ』に招かれたのは春も終わりのことだった。
その夜、アンリは、俺のお披露目のパーティーを開いていた。
パーティーには、国内外の好事家たちが招かれていた。その中には、勇者パーティにいた大魔法使いである俺を知る者たちもいて、俺は、いたたまれなかった。だが、アンリは、俺に貴族の笑みを浮かべて告げた。
「お前は、胸を張って毅然としていればいい。お前は、私の最高傑作なんだから」
俺は、アンリが特別に仕立ててくれたダークブルーの礼服を身に付けていた。それは、俺の漆黒の髪色に似合っていると思う。そして、その胸元には、アンリから贈られた深紅の魔石を加工したピンが飾られていた。
俺は、人々の好奇の目に晒される中、背を丸めることもなく、口許に笑みを浮かべていた。
俺は、アンリの手で変えられてしまった。
ここにいるのは、もう、勇者一行の魔法使いだった男ではない。
俺は、この城の王の手によって作られた最高の男娼だ。
俺は、アンリによって魔法ではない力を与えられた。
それは、夜に君臨する帝王となる力。
真夜中になる頃にもまだパーティーは続いていたが、俺は、ルトに手を引かれて奥へと向かった。
そこは、この城で最も大きくて豪奢な部屋だ。部屋の一番目立つ場所には、特大の天涯つきのベッドが置かれている。
ここがこれから俺の仕事場になるのだ。ここで、俺は、幾人もの男たちに抱かれることになる。
俺は、大きな窓から外を見下ろした。
そこからは、夜の花街の明かりが見える。
俺は、ぎゅっと胸元で手を握りしめた。
正直、今でも、ここから逃げ出したい。
だけど。
俺の中には、小さな炎も燃えていた。それは、復讐の炎。
ルトが言った通り、ここは、特別な場所だ。
ここを訪れるだろう男たちの権力を使えば俺をここに墜とした連中に復讐することも可能だし、俺がこの世に君臨することもできるだろう。
俺は、これからこの顔と体、すべてを使って成り上がる。
ドアがノックされる音に俺は、振り向いた。口許に微笑みを浮かべる。
さあ、戦闘開始、だ!
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