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第16話 初めての客(6)
2ー6 川の流れを変える?
それからカークは、毎日俺のもとを訪れて俺を抱いた。
辺境伯であるカークが毎日店を訪れるのは、しばらく用があって王都のタウンハウスに滞在しているからだった。
カークの訪問が一週間続いた頃のことだ。
カークの様子が少し変だった。
なんだか、俺を抱いていても心ここにあらずという感じで疲れているようだった。
俺は、ことが終わってからカークにベッドの上にうつむきに寝るように促し、彼の体をマッサージしてやった。
この世界では、マッサージとかの文化はあまりないが、前世の記憶ではよく母の肩や背を揉んだことを覚えている。
俺は、カークのかちかちになった背を揉み解しながら彼に訊ねた。
「疲れが溜まってるみたいだな。何か悩みごとでもあるのか?」
「ん・・」
カークは、俺にきかれてため息をつく。
「いや、領地でちょっと問題があってな」
カークがいうには、今回の彼の王都の訪問は、嘆願のためだという。
彼の領地であるコントラナ地方では、春先によく豪雨が降ることがあり、その度に領地を流れている大河ラドニア川が氾濫するらしい。そして、今年もまた水害のために多くの民に被害があった。そのため、カークは、王都の研究者の知恵を借りるためにやってきたのだが、そういった河川の氾濫についての研究をしている者がなかなか見つからないのだという。
そういえば、戦国時代にそういう話があったよな。
俺は、前世の記憶を思い出していた。
「川が曲がっているところを直したらどうかな」
俺は、マッサージしながら話した。
「治水工事とかいうんだっけ?川の氾濫する場所を緩やかな流れに変えてやればいいんじゃないかな」
「川の流れを変える?」
カークの肩がぴくっと動いた。俺は、手を動かしながら頷いた。
「そう。氾濫しやすいところを直してやるんだ」
まあ、こんな工事は、なかなかできるものじゃないんだが。でも、この世界には、魔法があるからな。
「土魔法使いを集めて工事をすればいい。ついでに川の氾濫しやすい場所に堤を作ればいい」
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