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第18話 初めての客(8)
2ー8 キッシュ
それから数ヵ月が過ぎた。
王都にも秋が来ようとしていた。
もうすぐ俺がこの娼館にきて1年がたつが俺は、まだ、カーク以外の客をとっていなかった。それは、アンリが俺の値段を恐ろしく高くしていたからだ。
一晩男娼を抱くのに金貨100枚とかあり得ない!
事実上、アンリは、俺をカーク専用の男娼と考えているようだった。
おかげで俺は、毎日、暇を持て余してしまっていた。
暇な時間を潰すため俺は、ルトに頼んで厨房を使えるようにしてもらった。
そこで俺は、ちょっとした軽食を作ってみた。
幸い焼き型があったのでそれを使って俺は、キッシュを作ってみた。
この世界では、ケーキなどの甘味もあったがなかなかお高くて庶民が口にすることは難しかった。
キッシュなら小腹が空いたときにもいいし、お菓子としても手軽だ。何より材料費が安くあがり庶民にも手が届きやすい。
俺は、キッシュをアンリに味見してもらった。
一口食べてキッシュを気に入ったアンリは、それを娼館で提供することにした。
安くて美味しい軽食として娼婦たちに受け入れられたキッシュは、やがて客にも食べられるようになった。
冬が来る頃には、キッシュは、娼館『シャトウ』の名物として有名になっていた。
キッシュを作ったご褒美としてアンリは、俺にまた金貨50枚をくれた。
それを俺は、半分ルトにわけてやることにした。
いつも世話になっているお礼だ。
ルトは、最初俺から金貨を受け取ろうとはしなかった。だが、俺は、無理矢理に受け取らせた。
俺が絶望せずに娼館で暮らせているのは、ルトのおかげだ。
それにいつも尻の洗浄をするスライムの世話をしてもらっているしな。
ルトは、俺から受け取った金貨を全て家族に送るといっていたが、後で他の使用人からきいたことによると金貨は、すべて教会の運営している孤児院へと寄付されたらしかった。
なんでもルトは、その孤児院出身の孤児だったそうだ。
ルトは、娼館で働いて手に入れる給金のほとんどを孤児院に寄付しているとのことだ。
ほんとに律儀な奴だ。
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