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第39話 異界の徒(9)

 4ー9 古の記憶  「・・ヤーマン様・・?」  俺が震える声で呼び掛けるとその闇の凝縮されたものは、答えた。  「ああ、心配させてしまったかな。大丈夫、だよ、ルシウス。案じることはない」  俺の頬に触れている闇は、暖かくて。  俺は、こくんと頷くとその手に重ねていた手に力を込めた。  ヤーマン老は、低く笑い声をあげた。  「まさか、ここでこの姿を現すことになるとは思わなかった」  そして、漆黒の闇は、じょじょに薄れていった。  俺は、ヤーマン老が消えてしまうのではないかと不安で彼の手に重ねた手を強く握りしめた。  部屋の灯りが揺らぎ、ヤーマン老の姿がまた光のもとに露になる。だが、それは、かつての姿とはまったく異なるもので俺は、目を見開いてじっと凝視していた。  部屋の空気の乱れが収まったときには、ヤーマン老の姿はそこから消えていた。  かわりにそこにいたのは、魔性のもの、だった。  それは、漆黒の闇より黒い髪を背まで伸ばした美しい人の姿をしていた。その人ならざるものから俺は、目を離すことができなかった。それは、俺を宝石のように美しい闇の瞳で見つめていた。  「私がこの姿でこの世界に顕現するのは、数百年ぶりのことだな」  それは、俺の頬をそっと撫でると俺を覗き込んだ。  「あれが失われて以来のことだ」  「あれ?」  俺は、その人ならざるものに訊ねた。俺の問いにそれは、答えた。  「私の伴侶だった者のこと、だよ、ルシウス」  それは、愛おしそうに俺の頬をすりすりと撫でると俺の唇にそっと触れた。  「古の月の神リュカ。それが私の伴侶だった者だ」  だった?  俺は、そのものの目を見つめ続けていた。  「もう、その方は、おられないのですか?」  「ああ」  それは、俺のことを愛おしげに見つめて微笑んだ。  「だが、やっと見つけた、ルシウス」  それは、俺の手をひき俺を引き寄せ膝の上に座らせると、俺の頬に口づけした。  「もう、離さない。私の伴侶、よ」  はい?  俺は、キョトンとしていた。  伴侶?  「あなたは、いったい?」  そう問う俺にそれは、微笑みかけるとそっと俺の唇にキスをした。ちゅっという優しい口づけに俺の体の奥に眠る何かが目覚める。  そうか。  俺は、全てを理解してその男の首もとへと腕を回した。  「カルゼ」  「思い出したか?リュカよ」  カルゼは、俺をぎゅっと抱き締めて囁いた。  「愛している。我が妻よ」  

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