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第78話 王国の宝玉(8)
8ー8 待っている
その夜、ウィズが俺のもとを訪れることは、なかった。
ウィズ、こと、マルキア・ディアス・ジニアス王は、我がエイダース王国とジニアス王国との和平交渉を結ぶとすぐに国へ帰っていった。
それからすぐに国王陛下から俺のもとに使者がきた。
それは、俺にジニアス王のもとへと嫁ぐようにという命を伝えるものだった。
俺に断る権利はなく。
俺は、結局、王国に身請けされ、ジニアス王国へと嫁がされることとなった。
国王陛下は、俺をいったん王城へと引き取り後宮で妃教育をしてから送り出すつもりだったが、それは、俺が断った。
俺は、俺だ。
もしもジニアス王が王の妃としての俺を望んだというのなら別だが、彼が望んでいるのは、ただの俺なのだろう。
ただの男娼であるルシウス・エルタークを彼は、望んでいるはずだ。
それに俺は、ここから。
この娼館『シャトウ』から身請け先へいきたい。
俺の願いは、叶えられた。
俺は、ジニアス王国へ嫁ぐまでの間、今まで通りここで暮らすことを許された。
俺は、アンリから国に買い取られたので晴れて自由の身となった。なのに、今まで通りこの娼館で暮らしている俺にアンリは、呆れたようだった。
「まったく。お前は、変わっている」
アンリは、俺のために王都1番の仕立て屋を呼び服を新調してくれた。
「ここから大国に嫁ぐんだ。金に糸目はつけられんだろう?」
娼館での最後の日々を過ごす俺のもとをかつての俺の客たちが訪れ、口々に祝いの言葉を述べ、贈り物を送ってくれた。
ヤーマン老は。
体調を崩し亡くなったそうだ。
俺にそれを伝えたのは、カルゼだった。正式にヤーマン老の跡を継ぎ新しいヤーマン商会の会頭となったカルゼ・ヤーマンが俺のもとを訪れてそのことを伝えた。
「ヤーマン老よりの言葉です」
カルゼは、俺の手をとりそれを伝えた。
「待っている、と」
俺は、その言葉に頷いた。
ルシウスとしての生を終えたなら今度こそは、カルゼのもとに還るのだ。それまでもう少しだけ待ってて。
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