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第15話 ひとつになった後の件
8 ひとつになった後の件
帰りの車の助手席には松吉が座った。エステル嬢は恋人と二人電車で帰るとのことだった。
カーナビに松吉の新しい住所を入れた。弦蔵師匠のアパートに程近い場所だった。
車を止める場所を探して辺りをさまよう。松吉の道案内は方向音痴の面目躍如といったところだった。
「そっちにアパートの駐車場があったはずです」
と言われた通りにハンドルを切っても駐車場など見当たらない。「あれ?」と戸惑い黙り込んでしまう松吉にくすくす笑わずにはいられない。
結局、直己がコインパーキングを見つけて車はそこに入れた。
そこから松吉のアパートに行く道はもうわかっていたがあえて道案内をさせると、とんでもない方向に連れて行かれる。
「いや、こっちだよ」
と手を掴んでアパートに向かう。
「何でわかるんですか?」
「今、車で通って来たじゃないか」
「そうだっけ?」
松吉はきょろきょろと前後を確かめている。細い路地には誰もいない。直己はつないだ手の指と指を絡めてしまう。それだけでは飽き足らず手を繋いだまま身を寄せる。
「人が来ます」
と松吉は肩で直己の身体を押し返す。
また直己が身を寄せて押し返される。ほとんど押しくらまんじゅうでもしているかのように歩く二人だった。
なのに直己は松吉の部屋に入った途端に距離をとった。
他者の目がある場所なら自制心が働くが、二人きりになったらまた強引に嫌がることをしそうな自分が怖かった。
ほとんど何もない部屋だった。
小さな玄関の先にキッチン、その反対側にバストイレ。六畳一間の先には薄っぺらいカーテンをぶら下げた窓があるだけである。
家具と呼べるのはカラーボックスぐらいで、他は一枚の座布団と寝具の布団が畳んであるだけだった。
「どうぞ」と招じられて玄関を上がったものの、直己はただその何もない部屋を見回しているばかりである。
松吉もまた黙って狭いキッチンの電気ポットで湯を沸かしている。
ぎこちない動きで「お茶を」と煎茶のティーバッグを取り出している。
何となく背後でそんな様子を眺めていると、松吉は意を決したかのように振り向いた。両手を直己の首っ玉に掛けて唇を寄せて来る。
ああ、このキスは知っている……と思う間もなく唇を吸われ、舌がちろりと口中に押し入ってくる。
松吉の猫のような舌が、歯列を這い直己の舌と愛撫を交す。
途端に理性が吹っ飛んだ。
激しく口づけを交しながら、華奢な身体のあちこちを慌ただしく両手でまさぐる。
Tシャツの裾から手を差し入れて、滑らかな肌の感触を両掌で堪能する。
発熱した時にぽつんと薄紅色だった乳首を覚えている。その突起に指先が触れるや夢中で撫でる。
「あっ……」と漏れた声は松吉のものである。
もっと聞きたいと小さな乳首を指先で撫でては摘む。それに呼応するように、
「んっ、あ……はん……」
とかすかな声を漏らしては息が荒くなって行く。
直己の舌は松吉の唇を離れて、愛らしいえくぼや美しい睫毛の一本一本までも存分に味わう。
柔らかい耳朶を甘噛みして、何なら耳全体を口でやわやわ噛んでしまう。
耳元にはぁはぁと荒い息が聞こえるのは、自分のものか松吉のものかわからない。そっと表情を覗うと、松吉は目元まで真っ赤になって喘いでいる。
その切ない表情にいよいよ核心に触れようとする手を止めて「いい?」と訊いてみる。
下腹部にすっかり昂った松吉のそれが当たっている。だが自分が触れていいのかどうかわからない。
松吉は自分からTシャツを脱いでチノパンの前を開けた。直己がそれを下ろすのを、荒い息で黙って見下ろしている。しつこいかと思いながらも、もう一度「いい?」と訊く。
「先生も脱いで……」
目が淫猥に濡れてぎらぎら光って見える。
それはそうだろう。下腹部ではもう隆々と勃ち上がったものまでも濡れているのだ。
実のところ直己もあまり大差ない状況ではあったのだが。
言われるままに服を脱ぎ捨てて、松吉の前にひざまずくと猛っているものを口に含む。
「やだ!」
と頭に手をかけられて、慌てて口を離す。
見上げると松吉は思い切り困惑した表情で直己を見下ろしている。
戸惑うようにもじもじと直己の髪を掴んだり離したりした揚句、泣きそうな声で、
「やじゃない……もっと……」
聞こえた途端に直己はそれを全て飲み込んでいた。
「ひぃッ」とばかりに息を吸い込む松吉である。
泣きたくなる程の愛おしさに直己は夢中でしゃぶり続ける。
「うっ……あ、あう……ひッ、い……いい……」
喘ぎながら聞こえて来るのは、恥じらいと快感がない交ぜになった切ない響きである。
また松吉の両手が、直己の頭を押しのけようとしている。
「ダメ! 先生……イ、やめ……出ちゃうッ」
口は離さなかった。両手で抱きかかえた腰が激しく震えている。
「出……んッ……んんッ……」
熱い物を嚥下する。全てを飲み込み、果てたものに優しく舌を這わせる。
松吉は力を失い流しに背を当てたまま、ずるずると床に腰を落とした。その背中に両手を回して強く抱きしめる。
駄目だ。こちらこそイク……と気づくと、直己の股間には松吉の手があった。強く握って動かしている。
「いい?」と目を覗き込まれて、息を飲んで頷く。
声も出ない。荒い息が漏れるばかりである。
そして、あっという間に松吉の手の中で弾けた。脳天の先まで快感が突き抜ける。
途端に何故だか涙まで浮かべて、
「好きだ」
と言っていた。
裸の胸と胸がひたりと合わさる。激しい鼓動が聞こえるのは自分のものか松吉のものか。敷き延べた布団の上で裸で絡み合っている。
直己は松吉の背中に腕を回し、中に入った自分に自制をかける。
紅潮した松吉の顔を見る。
嫌がっていないか。
怖がっていないか。
「先生……好き……大好き……」
うわごとのように言って松吉の両脚が背中を締め付けている。
直己はゆるりと動きを再開する。松吉の舌が直己の唇を割ってのたりと入って来る。
迎え入れて舌もまた動かす。上でも下でも松吉とつながって、一つになっている。動きが自制心を失い激しくなる。
「あっ、あっ……んっ、い、いい……い、もっ、もっと……あっ」
と、か細く聞こえる松吉の声に、興奮が高まる。
またも松吉が達する。直人は松吉の切ない表情を堪能して遅れて達する。
二人で布団に倒れ込んだのはまだ明るい頃だったが、日が暮れ暗くなっても何度も抱き合っていた。
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