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星の灯 下

全く奴ときたら、いつもこうだ。 だから我輩は、この鷹色の髪の男が嫌いなのだ。 奴の申し出を断れた試しがない・・・。 いつもいつも、何かと理由をつけては、我輩が断れないように仕向けるのだ。 もう、ずっと昔。 我輩がこの学校で生徒の立場にあった時から、奴はこうだった。 あの頃は、奴を合わせて4人ともう1人”悪戯仕掛け人”とかいうおかしな組織を作った連中が居た。 その後、その組織はどうなったのかは我輩の知るところではない。 知っている事と言えば、その中の2人は闇の陣営に殺され、1人は仲間だった奴に裏切られ殺され、1人はアズカバン送りになった。 そして、最後に残ったのは奴1人だけ。 所詮、我輩にとっては、そんな事はどうでも良い事だった。 ところが、奴と来たら学生時代と同じように我輩を困らせる。 目的は不明。 我輩を困らせて楽しんででもいるのだろうか。 兎に角、関わり合いに成りたくない男だという事だけははっきりしている。 「セブルス?何をそんなに難しそうな顔をしているんだい?眉間に皺が寄っているよ。」 「貴様の案ずるところでは無い。貴様は貴様で己の心配をしていれば良かろう。」 生徒の居ない、暗く静まり返った廊下に二人の足音が木霊する。 「そうかい?しかし、自分の心配というのは案外つまらないものだよ。」 「おや、ルーピン。自分の事に無関心とは、あまり褒められたものとは言い難いですな。」 「お言葉を返すようだが、私はもう何度も経験してきた事なのでね。そんなに毎回心配などしていたら、それだけで参ってしまうよ。セブルス。」 「・・・ふん。殊勝な事だな。」 横目でじろりと睨みつけてやる。 奴が何の反応も示さない事をわかっていても、そうせざるにはいられなかった。 校庭に出ると、青臭い匂いが風に乗って鼻を擽った。 と、同時に風が髪をも浚うので、我輩は顔をしかめた。 「ルーピン。どうやら貴様が言ってたものとは随分かけ離れた空模様なのだが、これは一体どういうことかね?」 快晴どころか、暗雲が垂れ込めているのだが・・・。 遠くのほうで、暴れ柳がしなっている音が聞こえる。 「おや?おかしいな・・・。つい先ほど空を見上げた時には月がとても綺麗に輝いていたのだが・・・。」 奴は正門から出てすぐの階段の中央付近で立ち止まり、空を見上げた。 「先ほど・・・とは、何時の事だね?」 「そうだな・・・。君が自室に現れる前・・・、もっと正確に言えば私が君の書斎に現れる前、つまり私が自分の書斎から空を見上げた時だね。」 「貴様の説明は解り難い。もっと端的に説明したまえ。」 「夕食が終わって、書斎に戻ったのが8時頃だから、その位の時間帯だよ。」 「つまり、今から遡る事5時間前だな・・・。5時間も前の事をつい先ほどというような言い方はしない。覚えておくと良かろう。」 子供を嗜める様な声で言葉を返してやる。 すると、奴は困ったような表情で笑った。 「あぁ、すまないね。何しろ、君の書斎は面白いものが沢山あるので、つい時間の経過を忘れてしまってね。」 「何っ!?貴様、いつから我輩の書斎を荒らしていたのだっ!!」 不謹慎にも程がある。 憤慨しそうになりながら、奴を睨み付けた。 ところが、どうしたことか。 奴は、最初小刻みに肩を震わせていたと思ったら、突然、ふっと噴出した。 「・・・くくっ。あ、いや、済まない。セブルス、君は昔とちっとも変わらないんだね。」 それだけ言うと、奴は我輩の横を通り過ぎ、青草の上へと降りた。 「確かに、風が強いようだね。でも、散歩に支障は無いだろう。」 奴が風下へとどんどん進んでいってしまうので、我輩は慌てつつも後に続いた。 「そう、本当は君の書斎についたのは君が来る10分前だよ。だから、何も心配する事は無いよ。例えばもし、君が謀反や謀略を起こそうと企んでいたとしても誰にもバレる事は無いだろう。」 我輩は顔を顰めた。 書斎の滞在時間については仮に良しとするが、謀反や謀略とは聞き捨てならない。 「もちろん、君はそんな事はしない事はわかっているよ。しかし、ただ、君は少々お節介焼きなだけだ。」 相変わらずずんずん進んで行ってしまうルーピンを追いかけながら、声をかける。 「お節介焼きとは、一体どういうことかね?我輩は日々、校則や規律を守らない輩を更生させるべく身を削っているのだ。」 「ハリーから聞いたよ。君は日々危険な事柄から彼を守るのに必死らしいね。」 我輩は自分の耳を疑った。 ポッターが我輩に感謝の念など抱いている訳が無い。 「どうやら、耳がおかしくなってしまったらしい・・・。もう一度、お願いしよう。」 「それは、確かにハリーは君の事をあまり快くは思っていないだろう。しかし、私からしてみれば君の行動は実に微笑ましい程なんだ。安心したよ。」 「一体どういうことかね?」 「君は気付いていないようだけれど、君は常に自分に厳しく、人にも厳しくある。ハリーに対しては人一倍。しかし、一見すると解り難いが、君の優しさだろうと思う。」 奴は相変わらず、我輩のほうを振り向きもせずにずんずん進んでいく。 風も一向に衰える気配も無く、ローブが乱れながらはためく。 それにしても、奴の言葉には困惑した。 我輩はポッターになど優しく接した覚えなど無いし、むしろ邪険に扱っているといえよう。 昔から、突拍子も無い事をしでかす奴だったが、月に捕らわれて今度こそ正気を失ってしまったのだろうか。 「我輩がポッターに優しいなどという事は断じてない。その、生徒を贔屓して扱っているようなものの言い方はやめてもらおうか。」 「そう、君は昔から自分の心に鈍感だ。」 そう言うなり、奴は突然立ち止まった。 「じゃぁ、聞くが、君はどうしてあそこまでハリーに執着するのかな?」 「それは、もちろん・・・」 言いかけたところで、言葉を濁らせた。 確かに、思えば、ただ嫌いだというだけで片付けられる話ではないだろうと思う。 本来ならば、嫌いならば無視する事のほうが、断然利口で簡単なやり方だろう。 「そう、君は彼の事が嫌いでありながら、実は心の奥では心配なんだ。彼はとってもジェームズに似ているからね。ハリーはジェームズとは違う・・・。しかし、彼はそっくりだ・・・。容姿も、言動も。」 そして、奴は途中で言葉を切った。 刹那、息をつくと、微笑む。 「君は昔からジェームズの悪戯に引っ掛けられてきただろう。今回もきっと、ジェームズの仕業に違いないね。君に厄介な贈り物を寄越したんだ。」 「何が言いたい。」 「君はまだ、ジェームズの悪戯の中に居るのさ。悪戯という名の魔法の中に。そして、私もね。」 風は相変わらず吹き荒れていた。 森の木々のざわめきが聞こえる。 「さぁ、セブルス、そろそろ戻ろうか。着いた頃には薬も出来ているだろう。」 「あと一時間ほどかかると思うが・・・」 「何、この道のりだ。ゆっくり歩けば問題ないだろう。・・・そう、それと」 言いかけて、くくっと笑う。 「君は私が接触するのを嫌がっているようだけど、私はそんな事に配慮は置かないよ。何しろ同じ魔法にかかったんだ。だったら、一人よりも大勢でその魔法に振り回されるほうが楽しいだろう?」 「ふん、戯言を。」 ポッターという魔法使いは、昔から随分厄介な悪戯を仕掛けてくれた。 我輩は何度引っ掛かったことだろう。 彼亡き後の今なお、奴の悪戯の中に居るとは腹立たしい事この上ない。 だからこそ、あのポッターをいびってしまうのだろう。 ルーピンも、我輩の事を優しいなどと、よく言えたものだ。 そう、きっと全ては魔法のせいなのだ。

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