薄汚れたローブに継ぎはぎだらけのズボン。 履き古したローファーによれよれのシャツ。 俺は最初鷹色の頭が嫌いだった。 「なぁ、シリウス！！ホグワーツの創設者って４人いて、それぞれすごい力をもつ魔法使いだったって知ってる？」 「あぁ、知ってる！知ってる！中でも闇の魔術に関してはサラザール・スリザリンがずば抜けた才能を持っていたらしいぜ！！」 「でもゴドリック・グリフィンドールも負けちゃいないよ。サラザールの闇の魔術を破る事ができたのはあいつただ一人だけだったんだよっ！！」 「ライバルと認めることが出来たのは、お互いだけなんだぜ！！」 ９と４分の３番線、ホグワーツ特急のコンパートメントで俺はジェームズとホグワーツの歴史に花を咲かせていた。 最初、俺は一人でコンパートメントに座って杖を磨いていた。 そこへ突然誰かが扉を開けて中に入ってくるなり「かくまってくれっ！」という一言を寄越した。 それから唖然としている俺を無視し、プスプス言っているローブを叩きだす。 彼が言うには間違えてクソ爆弾を暴発させてしまったらしい。 「あ。まだ自己紹介していなかったね。俺、ジェームズ。ジェームズ・ポッターって言うんだ。よろしく。」 どうやら、自分も自己紹介をしなければならないようだ。 ふーっと軽く息をついてから話しだす。 「俺はシリウス・ブラック。あのさ。とりあえず、座ったら・・・？」 正直厚かましいヤツだと思った。 最初は。 少し話をしてみるとなかなか面白いヤツで気が合う。 それで、話が盛り上がって今に至る。 「そうそうっ！！それで、その戦い方といっ　た　ら・・・・・」 どんどん話が盛り上がり、まくし立てるようにお互い声を張り合げる。 話したいことが次から次へと溢れてきて、矢継ぎ早に話が進む。 そんな中、突然ジェームズが声のトーンを落とした。 何ごとかとジェームズの顔を覗き込んだが、他の事に興味を注がれたようで窓の外を穴が空くほど見つめている。 そんなジェームズを俺は訝しげに見つめた。 だけどそれに気付く事は無く未だに窓の外に見入っている。 ったく、せっかく盛り上がってきた処だというのに、外の何がそんなに面白いのだろう。 ちっと舌打ちをすると腕組みして椅子に深く座りなおす。 突然ジェームズが声をかけた。 「・・・・・なぁ、あれ・・・」 「あー？」 気の無い返事を返したら、やっとジェームズがコチラを見た。 と、思ったらすぐにまた窓の外に目を向ける。 「いや、あのさ。あれ、もしかしてダンブルドアじゃないかな。」 「ダンブルドア」と言う言葉を聞いたので、俺もちょっと外を見てみる事にした。 首を回すと長い髭を垂らしたじい様が目に入る。 「あ。ほんとだ。あれ校長だよ。何でこんな所にいるんだ？」 「さぁ。でも、挨拶にみえたようには見えないね。」 ジェームズと会話をしながらも、窓の外のじい様を見ていた。 黒く地味なマントを羽織り、三角帽を深く被っている。 どうやらお忍びらしい。 だけど、あの白い髭は目立ちすぎる。 俺は変装が下手くそなダンブルドアを鼻で笑ってやった。 でも、どうやらじい様に気付いたのは俺達だけのようだ。 周りの生徒達の声は相変わらず賑やかだ。 もしじい様に気付いているのならどこからとも無く歓声が上がっただろう。 何たって今世紀最大の魔法使いの一人だ。 そんな事を考えながら黒いマントにかかる髭を眺めていると、またジェームズが話し掛けてきた。 「なんだか様子がおかしいように思わないかい？誰かと話をしてるみたいだよ。」 言われて視野をダンブルドアの周りまで広げてみる。 すると視界にもう一人飛び込んでくる。 俺は自分の眉間に皺が寄るのを感じた。 「何だ？あれ。ホグワーツの生徒か？ずいぶん身なりがお粗末だな。」 「何だかローブが継ぎはぎだらけのようだけど。上に兄弟でもいたのかな？」 「にしても、あれはちょっと行き過ぎだぜ。あそこまでボロになったらいくらなんでも新調するだろ。普通。」 「それもそうだね。でも、あの子に何の用があってわざわざ校長がお見えになったんだろう・・・？」 「アレか？ダンブルドアのお気に入りってヤツ？」 「ダンブルドアは生徒をヒイキするような人じゃないよ。きっと何か訳があるに違いない。」 答えの見えない議論を進めながらも、ダンブルドアと話をしているらしいヤツを眺め回した。 後ろ姿しか見えないので男なのか女なのかも分からない。 分かった事といえば、そいつには何かあるらしいという事だけだった。 それともう一つ。 ジェームズは人一倍洞察力に優れているようだ。 誰にも発見できなかったダンブルドアを見つけ出し、推理と論理で今ある情報から分かることの最大限、余す所無く掴み取る。 フォーーーーーーーーーーー そうこうしている内に汽笛が鳴った。 そろそろ出発の時間のようだ。 しかし、ボロローブの子は汽車に乗る様子は無い。 二人は顔を見合わせる。 何故乗らないのだろう？ここまで来て？ もう一度窓の外を見る。 「消えた・・・。」 「マジかよ。」 お互いの顔を見合わせていた僅かな時間に忽然と姿を消していた。 ボロローブの子も、ダンブルドアも。 「なぁ、ホグワーツって姿現しはできねーんじゃなかったか？」 「そうだよ。それに、そもそもあの子がそんな高度な魔法は使えないと思う。」 「じゃぁ、何処に消えたんだ・・・？」 「おそらく、俺達には察しのつかない所だね。」 「何でだよ？」 「だから、ダンブルドアのＶＩＰって事さ。」 「はぁ？今さっき、ヒイキしねぇっつったのは何処の誰だよ。」 「あー、もう。鈍いなぁ。つまりさ。俺達に隠さなければならない何かがあるって事だよ。」 ジェームズが言わんとしている事が俺にはさっぱり分からない。 話を聞けば聞くほど頭の中がこんがらがるばかりだ。 たまらず、声を荒げる。 「だから、ソレ何なんだよ？」 「分かんないから、秘密なんだろ？」 ジェームズはニヤニヤとこちらの顔を眺めている。 最初、これは俺をバカにしてるのかと思っていた。 ところが、ジェームズの思考は俺の想像のつかない所を辿っていたのだ。 そんな事とは露も知らず、その時の俺は頭の中を整理するのに躍起になっていた。 そして、暢気にも精一杯ジェームズの口元を睨みつけていた。 後になって、ジェームズの癖を知る事になる。 そう、あの笑い方の真意を。 これから新入生として胸を弾ませながら列車に乗っている生徒達とは裏腹に、俺の歯車はもう回転し始めている事に気付く由も無かった。