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真昼の月 6

部屋に入ると、カラになったジェームズの鳥篭が転がっているのが目に入った。 その周りにはちらほらと羽根が散らばっている。 「あーぁ。全く。あいつも疲れてるのに、ジェームズってば無理矢理すぎるんだよなぁ・・・。」 自分の机にリストを放り投げると、俺はベッドに横になった。 もふっとした感触が気持ちいい。 「シリウス。もう寝るの?」 向こうでリーマスの声がする。 「いやー。まだ寝ないけど。」 「そう?じゃぁさ、お菓子食べる気無い?リリーから貰ったヤツなんだけど、一人じゃ食べきれそうに無いから。」 そういや、あれは並々ならぬ量だった気がする。 リーマスが階段を上るとき、足元が見えなくて大変そうだった。 ちょうど、お腹も減ってるようだから、貰っておこう。 「あぁ。食う、食う。」 そう返事をすると、むくりと起き上がる。 それから伸びをした。 「ピーターも食べる?」 「いいの?でも、ダイエット中だからほんのちょっとだけ貰ってもいい?」 「じゃぁ、二人ともこっちにおいでよ。」 リーマスのベッドに3人集まると、早速袋の中身を確かめることにした。 俺はベッドの淵に腰掛けながら、しげしげとでかい袋を眺め回した。 ピーターも興味があると見えて、身を乗り出して袋に見入っている。 リーマスがはちきれそうになっていた袋の口を開く。 と、見たことも無いようなお菓子が溢れ出てきた。 「うっわ、なんだこりゃ。多いにも程があるぜ。」 俺は呆気に取られながら頓狂な声を上げた。 「あいつ一体何考えてんだよ・・・。」 ピーターは袋に治まりきらなくて、転がり出たお菓子を拾い上げた。 「これってもしかして、マグルの世界のお菓子じゃない?」 そう言われてみれば、いつもの見慣れたパッケージは一つも無い。 「そういやリリーってマグル出身だったか?」 俺もこぼれ出たお菓子を拾いながら言った。 どうやらこれはクリームサンドのクッキーらしい。 「リリーの両親は、確か両方とも非魔法族だったと思うよ。」 リーマスも、転がり出たアーモンドチョコを手に取りながら言った。 今やリーマスのベッドは、マグル製のお菓子で埋め尽くされている。 「なんかこれだけあると、見てるだけで気持ち悪くなって来るぜ・・・」 俺は半ば呆れ顔で、唸った。 食べることが好きなピーターでさえも、ため息をついてげんなりしている。 俺はお菓子の山を眺めるだけで、とても手をつける気にはなれなかった。 「皆は食べないの?」 声を掛けられて振り向くと、アーモンドチョコを食べているリーマスの姿があった。 しかも、美味しそうに。 「おっまえ、よく平気な顔して食えるよなぁ。」 ふぅとため息をつく。 「そうかな?でも、食べない事には減らないよ?それに、意外と美味しいし。」 そりゃ、食べない事には減らないが、菓子の海を見ているだけで食べる気が失せてくる。 リーマスが平然と食べているのを見て、感銘を覚えた。 仕方無しに小さ目の袋を手に取り、開けてみる。 中を覗くと、ポテトチップが入っているようだ。 これなら、少しは食べられるだろうと思ってほっとした。 「シリウスもチョコ食べる?これ結構美味しいよ。」 ポテトチップをしばらく眺めていたら、再びリーマスが話し掛けてきた。 「んー。そうなのか?じゃあ一つだけくれ。」 本当はチョコなんて食べる気は無かったが、リーマスが勧めるので一つくらいならと思った。 それに、美味しそうに食べていたから。 普段も良く思うのだか、リーマスは何でも美味しそうに食べる。 だから自分も食べたい気にさせられるのだ。 ぽんと放り投げられたチョコを受け取ると、口に入れてみる。 何の変哲も無い、ただのアーモンドチョコだ。 「美味しいよね。」 リーマスはニコニコしながらチョコレートを食べている。 適当に「あぁ、そうだな。」と返事をすると、ポテトチップを口に詰め込んだ。 そして、もう一度ベッドの上のお菓子を眺める。 何度見ても変わらない風景に、ため息をついた。 少し気分が悪くなって来たので、お菓子から目を反らした。 何気なくリーマスの机に目をやる。 先ほど読んでいたと思われる分厚い本が置いてあるのを見つけた。 入学当初から、リーマスはいつも本を読んでいた。 あの頃は1人でいるのが好きなのだろうとか、暇つぶしなのかもしれないなどど思っていたが、未だに本を読んでいるところをみると、どうやら本当に本が好きなようだ。 ホグワーツの蔵書は量だけは沢山あるらしいから、退屈しないのだろう。 談話室に居た時は、すごく真剣そうに本を読んでいたから邪魔をしないでいたが、一体どんな本なのだろう? 難しそうにページを捲るリーマスの顔を思い出した。 「なぁ、リーマスっていつもどんな本読んでるんだ?」 なんとなく、興味を惹かれたので聞いてみる。 それから机の上の本に手を伸ばす。 ところが、リーマスの手が俺の手を遮った。 びっくりしてリーマスを見ると、はっとしたような顔をした。 それから、慌てて言葉を繋げる。 「あ、この本読んでも面白く無いよ。」 「あー、でもどんな本なのかくらい見てもいいだろ?」 リーマスが慌てているのを不思議に思いながら、尋ねる。 それにしても、何故そんなに慌てるのか気になった。 「えっと、ただの自叙伝だから。シリウスはそういうの興味とかあるの?」 「いや、特に興味は無いけど。何か見ると悪いのか?」 「いや、悪くないけれど・・・。多分つまらないと思うよ。」 「じゃ、ちょっと見せてくれよ。」 リーマスの手を、なるべくそっと退けて、本を手に取る。 本は分厚くて、あちこち擦り切れていた。 碧の扉に金文字で書かれている。 「マレー・キャプティバー?うーん、知らないなぁ・・・」 そして、パラパラとページを捲ってみる。 挿絵は全く無くて、中身は日記のようだった。 しばらく、ちらちらと視線を這わせた後、本を閉じる。 そして、リーマスに本を返した。 「俺、やっぱこういうの苦手だよ。」 苦笑いをしながら、リーマスを見ると、リーマスもそれに合わせて笑ったのだった。 本の中身は、殆ど日記のようだったが、所々の節目に合わせて詩が挟んであった。 読んでみたけれど、俺にはさっぱり解らない。 しかし、これが後に重要な意味をもたらしてくるなど、誰が予想出来ただろうか。 暗い底に横たわる彼を見つけるまで、秒読みに入っていただなんて・・・。 我は捕われ人 母は暗き天より下り 我を朝まで離す事なからん 罪人は可憐に踊り 罪なき者は朽ち果てる 母は我を愛すが如く 我も母を憎むが如く 罪人は大地を舞いながら 狂気に満ちた涙を流す 母から逃れる術は無く 母に歯向かう牙も無く 罪人は雄叫びを上げ 罪なき者は恐怖に震える 我は捕われしその時より 地獄の唄を聞き 天の嘲りを聞き この世の罪人となり 自らを罵り 自らを罰し 恐怖に打ち震え 母から与えられし刃を振りかざす 一度捕われし者は 二度と逃れる事あい適わん 我は捕われ人 我は罪人

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