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真昼の月 8

「で、何であの時リーマスも一緒に部屋に連れ戻さなかったのかな?」 「いや、だってさ。まだ居るって言ってたし。歌っていたのを邪魔したのは俺だし・・・。」 「でも、君はこのままだと風邪を引くと解っていたのだろう?」 ジェームズは頬杖を附きながら横目で俺を見据えている。 しかも、にっこりと笑いながら・・・。 ちなみに言えば、眼鏡の奥の瞳が光っている。 「いや、その、マント掛けたし・・・。」 「ふうん。君はセーターも無しに寒空をマント一枚で歩けるのか。大したものだね。」 「・・・っ。わかったよっ。俺が悪うございましたっ。どうもすいませんでしたっ。」 「分かればよろしい。」 ジェームズは一瞬ニヤっと笑うと、すぐに難しい顔つきになった。 「さて、それはそうと面会謝絶じゃねぇ・・・。」 「こっそり忍び込むか?」 「無理だろ。それに、万が一見つかったら大目玉食らう事になりかねないし・・・。」 只今昼飯の時間。 やっと眠かった授業から解放され、待望の昼休みの時間となった。 俺は伸びをしてから、教室を出て行く。 ところが、扉の前で足止めを食らう羽目になった。 悪魔の微笑みを浮かべたジェームズが俺を待ち受けていたのだ。 俺はなす術も無く、そのままジェームズの御縄に納まり、そして、今に至ったりする。 どうも、ジェームズが言うには昨日のうちにリーマスは風邪を引いたらしかった。 それで、俺がいびられたという訳。 元々よく具合を悪くして、医務室に縛られているリーマスだから、もっと気を使うべきだったのだ。 今更とは思いつつ、彼は今も高熱で苦しんでいるのかと思うと胸が痛くなった。 「そうだなぁ・・・。お見舞いの品だけでも届けておくかな?」 むすっとした顔で、ジェームズがぼやく。 しかし、俺はある事を思い出した。 「あ、ちょっと待てよ。ジェームズ、あれ使うべきだろっ!!」 「あれ?」 「そうだよ。今使わないで、いつ使うんだよ。今こそあれを使うべき時じゃないか!!!」 最初、ジェームズは眉間に皺を寄せていた。 しかし、徐々に何かを閃いたかのようにパッと顔が明るくなる。 「・・・もしかして、透明マント?」 「よしっ!決まりだなっ!!!」 すかさず右手でガッツポーズを作り、お互いの腕をトンと叩きあう。 今ではもう、お決まりとなったイタズラ決行の合図と共に、俺たちは席を立ったのだった。 「じゃ、ピーター、後はよろしく頼むよ。」 「うん、そのくらいなら任せて。」 時刻は7時過ぎ。 皆、もう夕食を食べ終え、談話室でくつろいでいる。 その中を、透明マントを羽織った俺とジェームズは出口へと向かった。 ピーターに先導されて、皆に怪しまれないように肖像画を通り抜ける。 ピーターは先生に質問をしに行くという設定だ。 帰りは一時間後にトイレの前で落ち合う予定でいる。 上手く肖像画を通り抜け、その後何事も無く無事に医務室へとたどり着いた。 辺りに人影が無いことを確かめる。 そっと扉を開けると室内へと潜り込んだ。 「なぁ、あいつどの辺で寝てるかな?」 「こっちの方じゃ無いみたいだね。奥の方に行ってみよう。」 マントに躓かないようにしながら、そろそろと足を進める。 「えぇと、確か面会謝絶者はいつもこの辺りだったよな?」 ゆっくり歩きながら、ジェームズに尋ねる。 「あぁ。でも、おかしいな。この辺りのベッドはみんな空だ。」 俺たちは顔を見合わせる。 ベッドはどれもカーテンが開いていて、人が寝ている気配が無い。 二人で医務室をきょろきょろ見回していると、扉が開く音がした。 誰かが医務室に入ってくる。 音を立てないように近くの空のベッドに寄って道を空ける。 医務室に入ってきたのはダンブルドアだった。 さっと扉を閉めると事務のほうへと向かって行く。 「ダンブルドアが来るなんて、何かあったのかな・・・?」 俺たちは何かに引き寄せられるかのように、じい様の後をついていく。 事務の棚には何かの薬の入ったビンが、上から下までぎっしり並んでいた。 「マダムはおるかの?」 事務の扉を開きながら、じい様は声を掛けた。 机に向かって何かを作業をしていたマダムは、くるりと振り返りダンブルドアを迎え入れる。 扉が閉まったが、ほんの少し窓が開いていたので中の会話が聞き取れた。 「まぁ、校長先生。今日はいかが致しましたか?」 「ちと、あの子の事が気になっての。そろそろ満月じゃろて。」 「その事ならきっとご心配は要りませんわ。今回も前と同じように薬を持たせ、叫びの家に出向かせましたから。」 「うむ。それならば良いのだが、ちと最近、気になることがあっての。」 じい様は、顎鬚を摩りながら、心配そうな眼差しでマダムを見ている。 半月眼鏡の奥の瞳がいつもより一層小さく見えた。 「彼の友人は、どうも聡い子が多くての。彼自身、秘密が明るみに出るのでは無いかと、怯えているのではないじゃろうか・・・・。」 じい様の言わんとしている事を察知してか、マダムが言葉を返す。 「校長先生。秘密が明るみに出ることなど決してありませんよ。私も含め、教師一同一丸となってあの子を守っているのですから。」 じい様はなおも顎鬚を摩っている。 少しの沈黙が続いた後、独り言のようにつぶやいた。 「ふむ。だと、良いのじゃがの・・・。どうも、わしは最近気が小さくなったようじゃ。マダム、仕事の邪魔をして済まなかったの。」 「いいえ、また何かありましたら御気がねせずに、是非いらしてくださいな。」 「では、失礼するかの。」 「なぁ、さっきのダンブルドアとマダムとの会話。あれ、何だろな・・・?」 自分のベッドの上であぐらをかきながら、俺はジェームズに尋ねた。 じい様が医務室を出てから後、俺達は医務室中のベッドを隈無く探し回ったが、何処にもリーマスの姿を見つける事ができなかった。 不思議に思いながらも、きっと俺達が押しかける事を見越して別室で休んでいるという結論に至った。 いつも、悪戯ばかりしているのだから、警戒されても仕方の無いことなのだ。 それにしても、医務室から帰ってきてからのジェームズの様子はおかしかった。 普段より口数が減り、一人で何かをしきりに考え込んでいる。 「なぁ、ジェームズ。聞いているのかよ。」 返事が無いので、少しむくれながらもう一度声を掛ける。 まったく、リーマスには会えないし、ジェームズの様子は変だし、面白くない。 またしても返事が返ってこないので、自分のベッドにごろりと仰向けに寝そべった。 少し高めの天井を睨み付ける。 なんとなく胸につっかかっていた、じい様とマダムの会話を思い返してみる。 あれは何の事だろうか・・・? 叫びの家とか、秘密とか。 叫びの家の事は、俺もかなり詳しく知っていた。 ココ最近、学校中で噂になっているお化け屋敷の事だ。 その昔、あの辺りもまだマグルが住んでいた時代。 今の叫びの家と呼ばれているあの家にも、貧しいながらも楽しく暮らしているマグルの一家が住んでいた。 そんなある年、日照りが続きこの上ない飢饉に襲われた。 税金の徴収だけは従来どおり厳しく、人々は苦しめられた。 それはマグルの一家も例外では無かった。 パンも、水も無く動く事も間々ならなくなっていた時、突然家の扉を乱暴に叩く者が訪れた。 それはもちろん招かれざる客、国の税官だった。 この国では税金を納められなくなった者は、有無を言わさず奴隷とさせられた。 そして、年寄りや赤ん坊などの奴隷にも成れない者達には死しか待ってはいなかった。 彼らは必死の抵抗を試みた。 だか、虚しくも官僚達に取り押さえられ、反逆罪の罪も背負いながら追い立てられた。 その時の、子を思う悲痛な叫びや、赤ん坊の泣き声、年寄りのすすり泣き、一家の主の決死の抵抗などの声が残留思念として残り、未だに訪れた者に恐怖を与えている。 とか。 マグルの間で妖怪退治屋が栄えていた時代。 あの家も妖怪退治屋の拠点として使われていた。 ある日、森に居る妖怪を退治してくれという一件の以来を受ける。 何でも森に入った木こりや子供が、最近行方不明になっているということだった。 早速その仕事の以来を受け、森へと出かけていった。 そこで見たものは、身長1m弱の翼竜だった。 退治屋は難なくその竜を仕留め報酬を受け取った。 ところが2・3日経ったある日。 この日も静かな夜だった。 一仕事終えくたくたになっていた妖怪退治屋の家の上で不振な風音が響き渡る。 何かと思い、一人が外へと様子を見に行く。 ・・・が、突然の叫び声と共に姿を消してしまった。 一挙に家の中が蒼然となる。 窓の外に見えたものは、動く大きな影とその上にある大きな翼だった。 そう、実は以前退治したのは今いる翼竜の生まれたばかりの子供だったのだ。 何しろ竜は頭が良く、鼻も良い。 退治に行った時につけた匂いなどで嗅ぎ分けてきたに違いない。 退治屋は竜に敵う訳も無く、無残にも惨殺されたのだった。 そして、それが亡霊となり、今もあの屋敷に住み着いている。 とか。 他にも色々噂があって、尾ひれもついたりしているから、同じ話でも少しずつ違っていたりして、今では何が本当か分からない。 兎に角、確実にいえる事はホグワーツの生徒でその話を知らないやつは居ないという事だ。 俺は生徒が面白半分に作った噂話なのかと思っていた。 だけど、じい様が険しそうな顔つきで話している処を見るとふざけた話では無いらしい。 引っかかるのは、誰かを何かの目的のために向かわせたという事だ。 ダンブルドアが命じるほどの重要な事・・・。 それは、一体何なのだろう。 もしかして、さっきからジェームズが黙っているのはその謎が解けたからだろうか・・・? 慌ててジェームズのベッドを振り返る。 が、空になったベッドがあるだけだった。 俺が物思いに耽っている間に、何処かへ出かけてしまったようだ。 今の時間に出かけるなんて、やはり何処かいつもと違う。 ピーターのベッドを見ると、一人分布団が丸くなっている。 とりあえず、聞き出すのは明日にしようと思った。

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