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真昼の月 9

青痣だらけの腕。 切り傷だらけの足。 見るからに、やつれて疲れ切ってるはずなのに。 どうして、瞳の奥だけは鮮明な色を映し出しているのだろう。 新学期も後半に近づいた、10月中旬。 俺達は最終学期にある進級考査に合格し、現在ホグワーツ2年生になった。 といっても、難なく。とはいかなかったのだが・・・。 俺とジェームズは会議に名指しで上げられたらしいし、(リリー談) ピーターは個人的な課題が山ほど出されて、それに追われていたし、 リーマスはといえば、風邪をこじらせて学年最終テストを受けられなかったため、追試の処置が取られ、それに加えてレポートの課題が5つくらい出されたのだ。 つまり、皆やっとの事で進級したのだった。 ある意味、じぃ様校長の人望とも言える。 進級が決まった日の夜、嬉しさのあまり皆で騒いで、いつものようにハメを外し大騒動に発展した事は、言うまでもなかったりする。 これもまた、じぃ様校長のフォローにより新たなる停学処分の危機を免れた事は読者様と俺達だけの秘密。 そんな訳で、慌しい一年が過ぎた訳なのだが、現在もその慌しさはいたずら仕掛け人により続いている。 今現在、俺達は闇の生物についてのレポートの執筆に追われていた。 そして、一番最初に根を上げたのは俺だったりする。 「っだぁーーー!!何だよ。この課題まみれの学校生活はっっっ!!!」 「はいはい。これは俺達だけじゃなく、他の皆も同じ課題が出ているのだから文句言わない。」 「僕、羊皮紙3巻きなんて指定数いかなそうだよ・・・。」 「・・・シリウス、うるさい。」 いたずら仕掛け人メンバーはいつものように、今では指定席になってしまったソファと机に集まり皆で課題に取り組んでいた。 ジェームズだけは何故か既に課題が終わっていて、他の皆の手伝いをしている。 こいつばかり、いつも何でも要領が良くて、腹が立つ。 まぁ、おかげで課題がはかどるのは確かなのだが。 何でおまえはいつも他のヤツらより早いんだよ、と聞いたところ、 「俺は天才だからね。」 というなんとも誇らしげな返事が返ってきた。 丁度双方の会話を聞いていたピーターと目が合ったのだが、彼の目はこう言っていた。 「天才かもしれないけれど、天災でもあるよね。」 指定枚数に届かないでヒーヒー言っているピーターを哀れに思いながら、その隣に座っている人物に目を向ける。 ひっきりなしに羽根ペンを動かしている鷹色の頭。 「リーマス。最近俺に対して冷たくないか・・・?」 むっつり顔で声をかけると、目の前にいる人物はふと頭をもたげた。 それから、俺を見るとにっこりと微笑む。 彼の笑顔は爽やかそのものだ。 なのに。 「本音を言ったまでだよ。愚痴を聞かされる身にもなって欲しいな。」 そして、朗らかに微笑む。 爽やかスマイルとは裏腹に、リーマスの口から出た言葉は俺を突き放した。 「・・・っ愚痴の一つや二つ別にいいだろ!何か迷惑かけてる訳じゃないんだしさっ!」 顔の表情と言葉が全くもって一致しないリーマスに、むすっとして言葉をぶつけた。 しかし、リーマスは相変わらずにこやかな口調で言葉を返す。 「シリウス、すごく残念なことに、君の愚痴はとっても迷惑なんだ。まだ、言うようだったら僕は別の場所に移動するよ。」 リーマスは相変わらず穏やかな笑顔を俺に向けている。 しばらくむっつり顔で、リーマスの様子を伺っていたが、結局俺から目を逸らしたのだった。 新学年になってからというもの、俺とリーマスはずっとこの調子だった。 いや、もしかしたらもっと前、夏休みに入る前からかもしれない。 ジェームズもピーターにしても同様、リーマスに絡みづらくなっている様だ。 というより、俺達はリーマスから距離を置かれている気がする。 リーマスとは夏休みに一度も会えなかったから、もしかしたら、ただ緊張しているだけなのかと思っていた。 でも、もう既に10月。 距離をおかれているという事が決定的になりつつあった。 決して、その事に関して俺達は一切触れる事はなかったが、皆もなんとなく薄々気づいているようだった。 ピーターは去年に増してよそよそしくなったし、ジェームズもリーマスと話している姿を見る事が少々減ったように思う。 ただ他の奴と違うところは、俺に対しては棘があるように思えた。 相変わらず、顔は笑っていても何を考えているのか全くつかめない。 俺が話しかけるときは必ず決まって、あの笑顔を向ける。 必ず。 今年度に入ってから、彼の他の表情を一度も見ていない。 朗らかに笑い、微笑んだ口元。 にこやかな笑顔。 しかし、目だけは奥底にあるものをちらつかせている。 目は口ほどに物を言う、とはよく言ったものだ。 何を考えているかまでは分からない。 でも、あの黒く鈍い光を放っている瞳は、俺を快く思っていない証だろうと思う。 一体、いつからこんな風にこじれたのだろう・・・ 「おい。シリウスっ!いつまでそこに居る気なんだい?」 突然、声を掛けられて俺はふっと我に返った。 最近、物思いにフケる事が多くてジジ臭くなったなぁ、と思う。 「あぁ?んだよ。」 「もう、消灯の時間はとっくに過ぎていて談話室も真っ暗なのに、君はまだ気づかないのかい?」 ジェームズはいつもの優等生ヅラで俺を眺め回している。 眼鏡が月光に当たって、白くチラチラと光る。 俺は、その様子をぼーっとした頭で眺めていた。 「ぁー。マジだ。・・・暗いな。」 「そうだよ。暗いよ。君もさっさと荷物をまとめて寮に戻ろうよ。」 半ば呆れた声で、ジェームズは俺に言葉を返した。 「俺、いいや。まだココにいる。たまには広くて誰も居ない談話室でのんびりするのもいいだろ。」 俺はフカフカのソファにもたれながら、ジェームズににやりと笑顔を向けた。 なんたって、今座っているソファは談話室の中で一番人気の高いソファなのだ。 いつも仕掛け人が占領できているのは、ジェームズが要領よく陣取りしてくれているためだったりする。 今は夜だし、誰もいないから、誰にはばかる事も無くのんびり出来る。 ところが、ジェームズはそんな俺の心中なんかどうでもいいようだった。 「俺は別に構わないけれど。寮官に見つかってドヤされても知らないからな。」 普段、落ち着き払っているジェームズのくせに、今晩はやけに心配がっている。 いつもと違うジェームズの反応が、この時何だかとっても可笑しく思えた。 俺は暢気にも、ジェームズをからかって、困らせてやりたい衝動に駆られていた。 今思えば、この時素直にジェームズに従っていれば、何も知らずに済んだのだ。 そう、平和なままでいられたのに。 「あぁ、大丈夫だって。寮に居る限りは減点されないはずだろ?そのくらい、ヘーキだよ。」 俺は、ひらひらとジェームズに向かって手を振りながら答えた。 心なしか、ジェームズの表情が曇った気がした。 「いいかい。いつも君の世話を焼かされて、尻拭いをさせられて居るのは何処の誰だと思っているんだい?」 突然ジェームズの話し口調が温和なものから、せかせかとした口調に変わった。 俺は不思議に思い、ジェームズの顔を凝視する。 「いいから、今日は寮へ戻らないか。宿題だってまだ残っているだろう?俺も手伝うから。な?」 「あのさぁ、何でそんなに寮へ戻らせたい訳?今日何かあるのか?」 「何かあるなんて、そんな訳無いだろう?俺はただ、宿題が終わっていない君が心配で・・・」 「いーや。なんかあるな。俺はずっとココにいるぜ。」 「何かあるって、何があるのかな・・・?」 「何ってそんなん知るわけな・・・・・・・・・・・リーマス?」 突然現れた訪問者に、俺達はその場で瞬間的に固まった。 ジェームズは、口を固く結び微動だにしない。 ジェームズのそんな様子につられて俺は目だけで、事情を伺っていた。 リーマスだけは、きょとんとしていて、おどけた声で問いかけてくる。 「・・・今日、何かあるの?」 再びリーマスが問いかけると、やっとジェームズが金縛りから解かれたように口が動き出した。 「いや、宿題は今日中にやっておいたほうが良いだろうと思って、シリウスを誘っていただけだよ。」 「ふぅん、そうなんだ。確かにシリウスは宿題は進めておいたほうが良いと思うよ。」 リーマスは月光を背に浴びていて、表情がよく分からない。 でも、ココ最近のいつもの棘のある話し方だった。 現在、どんな顔でこちらを見ているのか予想はついた。 俺は視線を外す。 「あぁ、宿題はやるさ。ところで、リーマスは何でまた談話室に戻ってきたんだ?」 何の気なしにそれを聞いてみる。 すると、何故だか瞬間答えに詰まったようだった。 すぐに返事は返されたけれど。 「僕はまた眠れなくて、談話室でのんびりしようと思って抜け出してきただけだよ。」 「んじゃ、邪魔しちゃ悪いから俺は寮にでも戻るな。宿題もやらなきゃならねーし。」 そう言うと、俺はちらかっていた荷物をパパッとまとめ立ち上がり、階段へと歩き出した。 ジェームズが後から慌てて追いかけてくる足音が聞こえる。 俺は、意味も分からずイライラしていた。 明らかにリーマスは、俺の事を倦厭している。 宿題なんかぱっぱと終わらせてしまおう。 夕食の席からさらって来たミートパイとカボチャジュースがある。 昨日届いたばかりの卓上クィディッチ観戦ブックでも見よう。 それとも、さっさと寝てしまおうか。 俺は、兎に角何でもいいからスカッとしたい気分だった。 ところが、今夜は眠れない事になるなんて。 誰の仕打ちで、世界が変わってしまうなんて事があるのだろう。 追憶の中に存在する、不思議で不快な闇。 夜なんて明けなければいいと本気で思ったのはこの時だった。

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