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真昼の月 14
「・・・っていってもなぁ。何をどうやって調べるか。だ・・・。」
馬鹿でかい本棚を見上げながら、俺は呟いた。
どんな病かわかっていて解決法を探すというのなら、まだ分かる。
どんな症状が出ていて、どんな病なのかつきとめるというのでも、まだ分かる。
問題は何も手がかりが無いのだ。
唯一、今の俺が知っている事はリーマスの病気は風邪ではなく、ある一定周期で発病するものだということ。
「一定周期で発病する病気・・・。入学当初からのものだから結構重い部類に入るよな。」
ずらりと並べられた蔵書を睨み付けながら、再び独り言を呟いた。
ジェームズは図書室には一緒についてきたものの、本を一緒に探す気は無いらしい。
彼は図書室に着いた早々ひじを付きながら何かの本に没頭している。
つまりは、ノーヒント。
自力で導き出すしか無いようだ・・・。
「重い部類でしかも、特効薬が無いもの・・・。ほぼ一生付き合うことになるような病か。」
あまりにも本が多いので、なるべく頭の中を整理してみることにする。
「そういや、何であいつは夜中なんかに外出したんだ?しかも次の日には医務室行きだ・・・。」
俺があいつを寮へ引っ張り帰ろうとしたとき、あいつは確か「目的があって外に出た」と言ってた。
目的って何だ?
まさか、態々風邪を引きに外に出たのか?
どうせ医務室に行くなら、最初から仮病でも使えば済む話だ。
でも、彼はそうしなかった。
一体何故だろう。
マダムに頼まれて薬でも取りに行かされたというのだろうか。
いくら薬が切れてようと、マダムが夜中生徒に取りに行かせるなど考えにくい。
第一夜中の外出は校則で禁止されている。
しかし、それでも彼は外出していた事を思うと、それとは別の理由があるに違いないだろう。
それと、外出の後で毎回マダムの治療を受けているということは、マダムは彼の病気を知っている事になる。
だとすれば、夜中の外出も知らない筈は無い。
夜中外出するためには校長の許可が必要だから、もちろん校長も知っている筈だ。
校長とマダムは知っていて、でも俺達には隠さなければならない病気。
事実彼自身、俺達に風邪だと嘘をついていた。
一体何だ・・・。
何かの理由で夜中外出しないとならない病気なのだろうか?
しかし、仮にそうだとして、特別な理由が無ければ外出許可は下りない。
だからきっと、外出しなければならない重要な理由がある筈だ。
最初から医務室に行かない箇所も気になる。
そして通常ならば引率がいる筈だが、彼は一人で校庭を横切っていた。
何故だろうか。
以上を踏まえて、最初から医務室に行かない事と、夜中外出をしなければいけない事と、外出に引率がない事をまとめると・・・。
夜中誰かと一緒にいてはならないという事か?
それなら3つ共に筋が通る。
夜中一人にならなければいけない病気・・・。
とりあえず夜中発病するという事が分かっただけでもかなり絞り込めるはずだ。
「えーっと・・・、夜中発病といえばかなり特殊な部類だな・・・。しかも特効薬は無し。・・・この辺りの棚にありそうだ。」
俺は一番左端にあった本を引っ張り出す。
茶色い皮表紙で、古いものなのか擦り切れている。
「・・・皮膚に関してのものばかりだな。日光に当たってはいけないとか・・・まるでヴァンパイアがなりそうな病気ばかりだ。」
リーマスは日光にも当たることができる。
ヴァンパイアとは違うな・・・。
俺は元の場所に本を差し込むと隣の本を抜き取った。
黒っぽい茶色の皮表紙で、さっきの本よりはずいぶんと分厚く重い。
「なになに?・・・水中における急性肺疾患。リーマスはマーピープルじゃないぞ。」
再び本を棚に返す。
そして、またその隣の今度は少し赤茶色の本を取り出す。
「・・・夜行性緊張症。近そうだな・・・。」
夜になると突然情緒不安定になるのか・・・。
でも、これは定期的ではなく不定期らしい。
違うな・・・。
「だぁああぁっぁ!わかんねー!!」
ついに癇癪をおこすと、本を投げ出した。
俺はその場に座り込むと、天上を見上げる。
本棚は果てしなく天上へ伸び、光を遮断し辺りは薄暗い。
「ここの図書室の本を隅から隅まで読んでたら、死んでも読みおわらねぇよ・・・。」
「シリウス。答えは見つかったかい?」
声のしたほうを見上げるとジェームズのこちらを覗き込んでいる姿があった。
「・・・いや、まだ。」
俺は力なくそれだけ答えると、俯いた。
「頭の中を整理してみて、夜中定期的に起こる病気で、その時誰かと一緒にいてはいけないところまではわかったんだけど・・・。その先はまだ。」
「ふむ。」
「一応探してみたんだぜ。そんなん特殊だからな。だけど、どんなに沢山の本があっても情報がこれだけだとなると・・・とても・・・。」
再び今にも天上を突き破りそうな本棚を見上げる。
今まさに俺の目の前に立ちふさがっている壁のようだった。
「この本には何が書いてあったんだい?」
彼はおもむろに、茶色く擦り切れた本を指差した。
「あぁ、ヴァンパイアにまつわる病気の事ばかり書いてあったよ。日光に当たってしまった後の皮膚のケアとかさ。」
「へぇ、ヴァンパイアか。確かに夜行性だな。夜中友達を襲わないように一人になるといったらそれは頷ける。」
「でも、リーマスはヴァンパイアじゃないぜ。昼間だって俺達と一緒に遊んでるだろ。」
「あぁ、確かにね。ヴァンパイアってさ、日光に当たれないけど、当たれない事自体は病気とは違うんだろ?」
ジェームズが何故かヴァンパイアについて食いついてくる。
リーマスとは全く関係ないだろうに。
俺は眉間に皺を寄せた。
「病気っていうか、元々そういう種族みたいなもんだろ。巨人とか、ドワーフとか、トロールとか。大体なんで関係ないヴァンパイアなんかの話・・・。」
「でもヴァンパイアってそういう種族だけれど、元々人間だろ?生まれながらにしての巨人やドワーフやトロールとは違う。」
俺の言葉を遮ってジェームズは無理矢理会話を進める。
ひょっとして、実はリーマスに何か関係ある事なのか?
俺も馬鹿じゃない。
ジェームズの行動パターンくらいいい加減覚えた。
仕方無しに、俺は彼の話に付き合うことにする。
もしかすると、そこにヒントが隠されているかも分からない。
今の俺にとってはどんな些細なヒントも見逃す訳にもいかなかった。
「ヴァンパイアってさ、血を吸われた人間もヴァンパイアになるんだったか?」
「そうとも限らないらしいけれど、大抵はそうだろうね。そうやってヴァンパイアは増えていく訳だけど。」
「なぁ、ヴァンパイアとリーマスと一体どういう関係があるのかいい加減教えてくれないか?」
しかし一向にリーマスのリの字も出てこない会話に、俺はしびれを切らす。
ジェームズの事だから、きっと確信に迫った答えを返してはくれないだろう。
しかし、俺は質問せずにはいられなかった。
案の定、質問とは全く関係無い言葉が彼の口から出る。
「ヴァンパイアは昼間日光に当たれないだけで、普通の人間のように普段暮らしてる訳だ。」
「まぁ、そういう奴も中にはいるだろな。でも再三言うけどリーマスはヴァンパイアじゃ・・・。」
「あぁ。ヴァンパイアじゃない。」
「・・・リーマスは人間だよな?」
一瞬、もしかしてリーマスはヴァンパイアなのではないかという考えが頭を過ぎった。
が、そんな事ある訳も無く。
しかし、思わずそんな愚問をしてしまった俺は心のうちで苦々しく笑った。
リーマスはどう見たって人間だ。
それに日光に当たっているところを、自分は何度も見てきたではないか。
そんな事を思うなど、余りにも馬鹿馬鹿しすぎる。
ジェームズは、そんな俺の心の内を知ってか知らずか、俺を見ると答えを返した。
「あぁ、人間だよ。ヴァンパイアも人間だけれどね。」
何故かこの答えに、俺はある違和感を抱いた。
果たして、ヴァンパイアは人間なんだろうかと。
そして、ふと先ほどの会話の一端を思い出す。
ヴァンパイアは元々人間であること・・・。
そして、新たな疑問が俺の目の前に浮上した。
「・・・ヴァンパイアと同じように途中で種族変更できるような種族って他にもいるのか?例えば一人で夜中出歩かなきゃいけない種族とか。」
言いながら、そんな種族は果たして居ただろうかと考えを巡らせる。
そして、リーマスには人間ではない別の種族の血も通っているのだろうかと。
「それを調べるのは君の役目だろう?俺はただ本が読み終わったから暇つぶしに君の様子を見に来ただけだよ。」
ジェームズはそれだけ言うと、にやりと口元を歪めた。
その様子を見て俺はぱっと立ち上がると、魔法生物の棚を目指して一目散に駆け出す。
きっとあるんだ。
ヴァンパイアみたいな種族変更できる種類が。
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