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真昼の月 17
今宵も、いつもと変わらず静かな満月の夜。
眩しいくらいに輝く月は、埃まみれのこの屋敷も照らし出す。
照らし出されたこの暗闇を、いつ太陽の光に変える事が出来るだろう。
空に浮かぶ月に罪は無いのだけれど・・・
乾いた音と共に開かれた扉の向こう側で、埃っぽい空気に出迎えられた。
窓という窓には板が打ち付けてある。
そんな板と板の隙間から、夕闇色の光が入り込み、薄くぼんやりと部屋を照らし出す。
部屋の中は雑然としていて、あちらこちらに何かの木切れが落ちている。
部屋の周りを見渡すと、あらゆる家具という家具が何かによって破壊された後があった。
俺達は躓かないようにしながら、階段を登る。
そして、登った先の扉をゆっくりと開けた。
部屋には一人、こちらに背を向けて立っている彼が居た。
「先生?どうしたんですか?僕はここで鍵をかけてじっとしていますから大丈夫ですよ。」
彼は裾の破れかかったカーテンを引きながら声をかけた。
「もうすぐ満月になりますからもうお帰りください。」
言い終わるとこちらを振り向いた。
振り向いて早々、怪訝そうな表情でこちらを覗きこんでいる。
そして数歩近寄ると、困ったような表情をした。
「なんでこんなとこに・・・?」
唖然とした表情で、そこに立っている。
しばらく壁のほうに視線をやり何か考えている風だった。
それから観念したのか、目の前にしゃがみこむと俺の頬を撫でた。
「どこから来たんだい?」
俺は質問に答えなかった。
何も言わず、ただされるがままに彼に撫でられている。
が、しばらく撫でた後、突然彼の手の動きが止まる。
彼を見上げると口を大きく開けてぽかんとした表情で俺の後ろのほうを見つめながら、その場で固まっていた。
「・・・鹿?」
俺の背後にいるであろうそれは、せわしなく落ち着かない様子で床を掻き鳴らしている。
俺が扉の脇にどくと、彼に鹿と呼ばれたそれは部屋の中へ入ってきた。
彼はといえば、呆気にとられているようで呆然とその場にへたり込んでいる。
それもそのはずである。
普通に考えれば分かる事だが、家に突然鹿が訪れてくるなどそうある話ではない。
犬が訪れるならまだしも。
俺の隣で鹿はぴたりと整列する。
鹿は俺の倍はあるだろう大きさで、その角は天上を突き破らんばかりに上を向いている。
と、鹿はおもむろに立派な角の生えている頭を垂れた。
垂れると同時に一匹の鼠が鹿の頭から滑り降り、可憐に床に着地する。
ぽってりとして、丸い鼠は辺りをぐるっと見回す。
そして、するりと鹿の横に並んだ。
「・・・・!?」
彼は言葉にならない様子で、俺達3匹に釘付けになっている。
そう、俺は今漆黒の巨大な犬に身を窶している。
鹿が蹄を3回、カツ、カツ、カツと床に打ち付けた。
ぼ、ぼ、ぼんっ!!
「悪戯成功っっっ!!」
軽快に弾む声と共に俺達は一斉に、本来の姿へと変貌を遂げた。
「し シリウス!?ピーター!?それに、ジェームズ!?」
先ほどまで動物たちが居たはずの場所には、向かって左から俺、ジェームズ、ピーターの順に並んでいる。
「な なんで君達ここに!?」
リーマスは呆気に取られている様子で、その場に座り込んだまま目を白黒させている。
「へへっ!驚いただろ!!」
俺は得意満面に返事を返す。
ふとジェームズに目配せすると、お互いニヤリと笑った。
「悪戯仕掛け人!ここに参上!!!」
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