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真昼の月 18

あれから、3年半の月日が流れていた。 あの、暴れ柳の一件から。 あの事件の後、俺達がどうなったのかといえば、まるで何事も無かったかのように以前と同じ付き合いが始まった。 と、いえば若干嘘が入る。 あれから、リーマスは俺達にぎこちない笑顔を向ける事は無かった。 俺達もまた、ぎこちない笑顔を彼に向けることは無かった。 そう、つまり俺達はルームメイトという形でお互い踏み込まず、差し支えないところでの付き合いに変わったのだ。 友達付き合いと呼べるようなものでは無くなったけど、それはそれで彼にとって良かったのかもしれない。 なんて、思うにはおこがましいにも程があるのだけれど。 それでも、医務室から戻ってきた彼は何事も無かったかのように振舞ったのは、とても立派に見えた。 俺達も彼に応えるべく、何事も無かったかのように振舞った。 3年半。 そんな関係が続いた。 正直それはとても辛かった。 俺達は毎月訪れるあの日を、全く知らないふりをして通した。 それは俺達だけの努力ではなく、彼もまた俺達が知らないものだという態度で接してきてくれたのだ。 俺達が彼の秘密を知っていることを、彼はもしかしたら感づいていたかもしれない。 それでも、お互いギクシャクせずに済んだのは、お互いの協力があってこそに他ならない。 そうして、気が付いた時には俺達は5年生になっていた。 ただ、俺達は3年半の間何もしなかった訳では無かった。 そう、今こうしてアニメーガスに変身できるのはその月日をこれの練習に費やしたからだ。 まず、何事にも要領のいいジェームズが一番最初に会得した。 それでも2年かかった。 俺達3人全員がアニメーガスになれるようになったのは、正直奇跡とでも言うしか無いだろう。 一番最初に、変身することを提案したのはジェームズだった。 狼人間とは基本的に人間を襲う生き物だ。 とすればこちらが人間ではなくなればいいのだから問題は解決する。 そこで、アニメーガスになれば、狼人間になったリーマスとも一緒にいられる。 彼はあの時確かこんな風に説明した。 そして最後にこんな言葉を付け足していたように思う。 上手くすれば、狼になったリーマスとも意思が通じるかもしれないよ?と。 ジェームズは、俺がリーマスの秘密を知るのにやきもきしていたあの時間、アニメーガスに関しての本を熟読していたのだ。 俺がリーマスの秘密を知ったあの後、彼は即座にアニメーガスになる事を提案した。 その時既に、ジェームズはアニメーガスに関して何から何まで知っていた。 俺の質問には何事も詳しく分かりやすく説明していたことに、舌を巻かざるを得なかった。 勿論、一も二も無くその提案を受け入れた。 練習はとても辛く厳しいものだった。 何しろまず練習しているところを人に見られてはならなかった。 何故なら、アニメーガスを会得するという事は、魔法省の法律に触れるのだ。 そこで、俺達は誰にも見つからないような広い練習場所を確保する必要があった。 これもジェームズが場所を見つけてきてくれた。 それから頻繁に寮から居なくなっても皆に怪しまれないようにする必要もあった。 これは特にリーマスに神経を配らせた。 悪戯会議に出かけている事を口実にしていたので、定期的に悪戯を仕掛ける必要もあった。 そんな訳で、アニメーガスを会得する事に大変な労力と時間を費やしたのである。 しかしきっと、リーマスのほうがもっと辛い思いをしていただろうから、俺達の努力は彼に比べれば大変小さなものかもしれない。 「リーマス。長い間待たせて悪かったね。」 ジェームズがまだ放心状態でその場に座り込んでいるリーマスに声をかけた。 「今まで一人にしてしまって済まなかった。実は俺達は君が狼人間である事をもうずいぶん前に知っていたんだ。」 ジェームズはここまで言うと一端言葉を切った。 彼が狼人間と発した時に、リーマスの体が一瞬びくんと震えたような気がする。 俺はリーマスを見つめた。 「・・・ごめん。」 俺はリーマスに、ただ一言謝った。 本当は、もっと早くに彼の秘密を知っていた事を告げたかった。 そして満月が来る度に怯えて憔悴しきっている彼に、励ましの言葉をかけてやりたかった。 しかし、出来なかった。 俺達は俺達で、リーマスに拒絶される事を恐れた。 告げたことがきっかけで、彼が俺達に背を向けてしまわないとも限らない。 それだけはどうしても避けたかった。 何故なら、リーマスの事をもうずっと前から友達だと思っていたのだから。 とは言っても、彼に他の友達が居なかったという訳ではない。 確かにリーマスは案外社交的で、誰とでも仲良くしていたし、それなりに明るく振舞っていたように思う。 でも、その付き合いは浅く広くというふうに感じられた。 まるで平均台の上を渡っているかのようなその付き合い方は、何かのきっかけでバランスを失えばガラガラと崩れていきそうにさえ思われた。 そして、リーマスは踏み込む事に躊躇っているのではないかと思い始める。 殊更に、彼に不用意に告げることが躊躇われ、何年もの月日が流れていってしまった。 しかし、その間にも何度告げようと思ったことだろうか。 満月が来る度にやつれて行く様に見える彼が痛々しかった。 見守る事しかできない事がもどかしく、何もしてやる事の出来ない自分が腹立たしかった。 そして、情けなく思う。 だから、アニメーガスに完璧に変身できるようになれるまで、黙っていようと決めた。 自信を持って、リーマスの友達だと言えるようになろうと思った。 例えもしそれで彼に拒絶されたとしても、いつでも彼を受け入れられるようになっておきたかった。 しかしそれは、全ては自分のエゴに過ぎないものだったとしても。 「長い間黙っていてごめんな。」 俺は、そこで床にへたりついている彼に謝罪の言葉をかけた。 「知らないふりをして、騙してごめんな。」 心の底から、済まなかったと思う。 俺は、手をぎゅっと堅く握り締めた。 許してくれなどとは請わない。 受け入れてくれなどとも思わない。 怒ってくれても、全然構わない。 ただ一つ願うのは、最後に・・・。 「・・・うん。」 リーマスは、小さくそれだけ呟いた。 俯いている彼は、いつもより一層小さく見えた。 まるで女の子がそこに座っているのではないかと思うほど、リーマスの肩は細かった。 再びリーマスは小さな声で、しかしはっきりと俺達に言った。 「僕も隠していてごめん・・・。」 彼はぽつりとそういった。 継ぎ接ぎの当てられたローブの上からでも、彼の肩が小刻みに震えているのがわかった。 俺の中に、何かがどっと溢れ出すのを感じた。 あぁ、俺達は何年すれ違ってきたのだろう。 何故もっと早くに、お互いを認め合うことが出来なかったのだろう。 彼はずっと一人ぽっちで耐えてきたんだ・・・。 リーマスは、呼吸を整えると再び俯いたままで言葉を綴りだす。 「もし君たちが事実を知ったらどんな反応をするのかと思うと、怖くてどうしても言えなかっ・・・。」 「もう、いい!!リーマス!!もういいんだよ。」 俺は溜まらず声を上げた。 もういい・・・。 謝らなくてはならないのは、俺達のほうだ。 君を一人置いて、背中を向けたのは俺達のほうだ。 こんなにも辛い思いに君を落としたのは、俺達だ。 どんなに謝ったって、謝り尽くせはしないだろう。 「俺達はこの月日の間、練習を重ね、遂にアニメーガスになることができるようになった。」 ジェームズが、静かに言葉を紡ぐ。 心なしか、彼の声も若干震えているように感じられた。 「君が狼に変わる時も、俺達はずっと一緒にいられるようになった。どうかそれで許してもらえないか。」 俺はきゅっと下唇を噛んだ。 もう、君を独りにさせるものか。 「・・・勿論だよ。」 口元に手を当てているリーマスの声は、くぐもっていて涙に濡れていた。 「やっと仕掛け人が4人に戻る日が来たよ。」 ジェームズは優しい声で彼に言葉をかける。 この言葉の意味を誰もが理解するのに、そう時間はかからなかった。 俺は込み上げてくる感情を抑えきる事が出来なかった。 そして、未だそこに座っているリーマスを遮二無二抱き締めた。 「リーマスっっっ!!」 「・・・シリウス。」 もう二度と、こんな思いをさせて堪るものか。 離してなるものか。 「リーマスーっ!!」 半分泣きじゃくったような声でピーターが俺とリーマスに被さって来た。 それからジェームズも俺達に覆いかぶさるようにして抱き締めてくる。 「悪戯仕掛け人復活だ!」 ジェームズの声も上擦っていた。 その後、誰も一言もしゃべらなかった。 俺達はしばらくの間、ただ抱き締めあっていた。

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