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真昼の月 最終話
「っだぁーーー!!何だよ。この課題まみれの学校生活はっっっ!!!」
まず最初に談話室に罵声を轟かせたのは紛れもないこの俺だった。
「はいはい。これは俺達だけじゃなく、他の皆も同じ課題が出ているのだから文句言わない。」
ジェームズは、淡々とした口調で俺を諭す。
やっぱりジェームズだけは何故か既に課題が終わっていて、いつもの様に他の皆の手伝いをしている。
「僕、羊皮紙5巻きなんて指定数いかなそうだよ・・・。」
ピーターは相変わらず、課題に負われてぴーぴー言う学校生活を送っている。
そしてリーマスは・・・。
「・・・シリウス、うるさい。」
ぴしゃりと言い放ったのは紛れもない、俺の目の前で羽根ペンを動かしている鷹色の頭である。
「リーマス。何で俺に対していっつもそんなに冷たいんだよ・・・?」
むすっとして声をかけると、目の前にいる人物はふと頭をあげるとにっこりと微笑んだ。
それから、お決まりの彼の毒舌が炸裂する。
「本音を言ったまでだよ。君が五月蝿く騒ぎ立てるから、ほら見てご覧。皆がこちらを振り向いて煙たそうな顔をしているよ?」
そして、朗らかに微笑む。
爽やかスマイルとは裏腹に、リーマスの口からは出る言葉は俺に逃げ道を与えてはくれない。
「・・・っ少しくらいいいだろ!」
顔の表情と言葉が全くもって一致しないリーマスに、むっとして言葉をぶつけた。
しかし、リーマスは相変わらずにこやかな口調で言葉を返す。
「シリウス、すごく残念なことに、君が大声を上げると僕も含めみんなの勉強の妨げになるんだ。静かにしないなら談話室から君をつまみ出すよ?」
リーマスは相変わらず穏やかな笑顔だ。
しかし、言葉に棘がある事も事実で・・・。
「ちぇ。いいですよ。俺は向こうでちょっと窓の外でも眺めて気分転換でもしてくるさ。」
そう言い捨てると、さっとソファーから立ち上がり窓のほうへと出向いていった。
今日はとてもいい天気だった。
空が青々と広がりゆったり雲が流れている。
窓枠に肘をつきながら、ホグワーツから見える景色を眺めた。
陽気な日和とは、まさにこういう日の事を言うんだろうと、ぼんやりと考える。
「あー、こんないい天気なのに談話室に缶詰とはなぁ・・・。」
俺はぶつぶつと独り言を呟いた。
それから、ついてねーなぁ。と。
しかし、誰に言った訳でもない俺の呟きを隣で聞いてた奴がいた。
「ほんとだ。とてもいい天気だね。」
驚いて振り返るといつの間にかリーマスが窓辺に腰を下ろしている。
視界に入った瞬間、俺は顔をしかめていた。
「お前なんでついてくんだよ。俺は一人で外を眺めたいの!」
むすっとした顔で、彼に言葉をぶつけた。
それから、お前について来られたんじゃ気分転換にならないよ。という言葉は胃の中に飲み込む。
「へぇ、談話室の窓っていつからリシウスの私物になったの?」
にっこりと屈託の無い笑みを浮かべて返してくるので、俺は溜息をつく他なかった。
「あー、もう!くれぐれも俺の気分転換の邪魔だけはするなよ!!」
諦めて、せめてもの条件のようなものを彼に投げ返す。
こういう時にまた移動しても、彼は再び俺について来る事が多いのだ。
「シリウスってば酷いなぁ。僕がそんな事する風に見えるのかい?」
しれっとしてリーマスが返事を返す。
思わず俺は、彼の横顔に視線を注いだ。
相変わらず、楽しげに朗らかに笑う彼の顔が映る。
俺は最近、彼をあることで疑わざるを得なくなってきている。
「なぁ、お前、ほんとは心底俺のこと嫌ってるだろ!?」
思わず、その横顔に疑問をぶつけてしまっていた。
彼は驚いてこちらを振り返る。
しかしすぐに、俺に微笑を返した。
「さぁ、それはどうかな?」
相変わらずにこやかな口調だ。
彼は、俺の質問に言葉を濁した。
再び俺は顔をしかめると、窓の外に視線を移す。
最近の彼の俺に対する反応は、いつもこんな感じだ。
言ってる言葉と、あの表情がどうしたら繋がるのか全く検討もつかない。
考えたところでお手上げ状態なので、外の景色に集中する。
太陽の光に照らされて、青々と校庭が映し出される。
今を盛りと常盤色に生えた芝生の上をやわらかな風が撫でていく。
広い湖は、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
そしてその湖面の色は、空のコバルトブルーと湖本来のビリディアンが交じり合って、えも言われぬ様な色の共演をしていた。
空には澄み渡った青の中に、ぷかぷかと綿菓子のような白い雲がゆったりと棚引いている。
と、そこに普段なら見かけない真っ白な影を見つけた。
「ぁ、今日って満月なんじゃん。」
思わず言葉が出てしまった後ではっとして息を呑んだ。
「へぇ、ほんとだ。昼間に満月なんて珍しいね。」
リーマスは穏やかな口調で返事を返してきた。
その口調にやや安堵感を覚える。
そして、空を見上げながら呟く。
「昼間満月だと、変身しないんだなー。」
それから、毎回昼間だったらいいのにな、と呟いた。
「そうだね。人狼は満月の夜にしか変身しないからね。」
リーマスは穏やかな口調で会話を繋げる。
天気が悪くても変身しないからね、と。
空を見上げながら、しっかりと空に浮かぶ白い球体を見つめている。
その横顔は、柔らかく微笑んでいた。
しかし、膝に乗せられた手は微かに震えていて・・・。
俺は、右肘で頬杖を付きながら、左手で彼の手をそっと握った。
俺達がついてるから。
そう易々と君を月になんか渡したりするものか。
俺達はそこまで御人好しじゃない。
月がどんなに君を慕おうとも、俺はこの手を離したりはしない。
そう、最後には・・・。
最後には君が笑顔で居てくれたら。
君が、楽しそうに笑ってさえくれれば、俺は他には何もいらない。
窓辺に座ったリーマスを見上げると、彼はこちらを見て朗らかに笑っていた。
「・・・そういや。」
不意に疑問が沸く。
手を握り締めて彼を見上げたまま、その疑問を口にする。
「・・・そうすると今夜の散歩は無しって事か?」
散歩とはリーマスが狼になる夜に行われるアニメーガス3匹と人狼の合わせて4匹の夜の探検である。
夜中先生達の目を盗んで、校庭や校内、またはホグズミート方面の校外を散策して回るのだ。
リーマスは、ちらっと俺の顔を見ると、談話室の向こうのソファの辺りを眺めた。
そして、思案顔で首をかしげる。
「そうれはどうかな、パッドフット?プロングズが大人しくベッドに潜ると思う?」
談話室の向こうを見ながら、彼は言った。
そして、再び俺の顔を覗き込む。
「それもそうだな、ムーニー。今夜は校内を散策するのにもってこいの日和だろうな。」
にやりとして、彼を見上げた。
そして、再び窓の外の月を見上げる。
お前には負けない、と睨み付けてやりながら。
只今俺達の散策の礎として、忍びの地図を製作中である。
執筆者は何を隠そう、ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングズからなる悪戯仕掛け人達だ。
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