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初めての感覚

検問にひっかかったときは心底あせったが、そのあとは、何事もなくマンションにたどり着くことができ、マンションのエレベーターに乗り込む頃には、汗がだいぶ引いてきていた。 3階に着き、エレベーターから降りると、非常階段から上がってきた隣家の息子と鉢合わせした。 母親に代わって犬を散歩させていたらしい。 犬はハッハッと白い息を吐きながら、貞に向かって尻尾を振っている。 ──こんな大荷物を下げているところを見たら、コイツの母親みたいに何か言ってくるんじゃないか? 隣人一家は詮索好きで、妙に勘の良いところがあるから厄介だ。 特に、この息子は好きになれない。 背は貞より10センチほど低いが、筋肉量は3倍ほどあるような体格をしている。 色黒の肌に睨みつけるような目つき、厚い唇、太くて濃い眉、短く刈られた髪。 典型的なスポーツマンタイプといった風体で、貞とはまるで正反対な雰囲気を醸し出していた。 「あ、すんません、ちょっといいスか?」 向こうが話しかけてきた。 このくだけた話し方もあまり好きではない。 今どきの若者としては普通なのかもしれないが、もし自分の部下がこんな口の聞き方をしたら即座に止めるよう言っているところだ。 「何かな?」 貞は衣類や食料が入った袋の持ち手をギュッと握った。 「お宅から大きな音したんスよ。壁を叩くような音もしたし。母親から聞いたんだけど、お客さん来てるんスよね?ちょっと静かにするよう言ってもらえません?」 隣家の息子は貞に飛びつこうとする犬を、リードを引っ張って制止した。 「え?ああ、悪かった。言っておくよ。」 貞はなるだけ冷静なフリをして答えた。 「お願いしますね。」 隣家の息子は犬のリードを引っ張りながら、家に入っていった。 貞もドアを開けて家に入っていき、玄関に荷物を置くと、一目散に寝室に向かって行った。 「お前!大きな音を出したな!隣のヤツにまで聞かれたぞ!!」 ベッド脇に置いていたバケツが窓の下まで転がっている。 国彦は黙ったまま布団の中に潜り込んで、こちらに背中を向けていた。 貞は布団を剥ぎ取り、国彦の白い裸身を冷気に晒した。 肩を掴んで振り向かせた国彦の顔には、涙の跡ができている。 猿ぐつわにしていたフェイスタオルもびしゃびしゃに濡れていて、ずっと呻いていたことがすぐにわかった。 だが今の貞には、さきほどの検問と隣家の息子からの詮索による苛立ちが強く残っていた。 気の毒に感じるどころか、罰してやりたい気持ちにかられた。 ──殺してもいいところを生かしやってるのに!服も買って、美味いものを食わせてやろうと食べ物もたくさん買ってやったのに!そもそも、俺がお前を間違って連れ帰ったのは、お前のそのややこしい見た目のせいだ!女みたいな顔と体をした、お前が悪い!! 理不尽な癇癪なのはわかっている。 だが、膨れ上がった怒りはもう抑えようがない。 「おしおきしてやる!こっちに来い!!」 足首を掴んで引っ張ると、国彦は何をされるのかと瞳を大きく見開き、手足を大きくバタつかせた。 「ジッとしてろ!」 貞が怒鳴っても国彦は抵抗をやめない。 「おしおき」という言葉に恐怖を覚えたらしく、必死でもがいていた。 その抵抗も虚しく、貞に馬乗りにされた小さな体は完全に動きを封じられてしまった。 貞は国彦の男根に手を伸ばすと、竿を柔らかく握って上下に扱いた。 一番屈辱を与えられる方法は何かと考えて、こうしてやることにしたのだ。 ある意味、殴る蹴るより堪える仕打ちであろうことは明確だと考えた。 「アッ⁈やっ…ううっ」 突然のことにパニックを起こした国彦がかぶりを振った。 体を硬直させ、大きな瞳から生理的な涙を流した。 扱いた男根は熱と硬度を増してきて、国彦の喘ぎ声も高く大きくなってくる。 「あアッ、これ、なに…やっ、いやっ!」 脚をピンと伸ばして爪先を丸め、あえかな声をあげたかと思うと、国彦は体を震わせて射精した。 国彦は、放心状態でベッドの上に仰向けで寝転がっていた。 完全に大人しくなったのを見計らうと、貞は口を開いた。 「いい子だ。もうこんなことするんじゃないぞ。寝る前に風呂に入れてやる。髪も洗おう。」 国彦の頭を撫でると、べったりとした感触が手に伝わった。 先日「髪と体をキレイにしてやる」と言っていたのに、すっかり忘れていた。 「今日は肉を焼いてやる。コーンスープとポテトサラダもあるぞ。」 貞はそう言って寝室を出ると、玄関に置きっぱなしにしていた荷物をキッチンに運んで、夕食の支度を始めた。 国彦は、貞の話などまるで聞いていなかった。 男根から腰にかけてまで、ジーンと痺れるような快感に襲われて、それが自分の手で触れて自慰をしたときより、はるかに強烈だったことに、戸惑いを覚えていた。 その日の夜、夕食を終えた貞は国彦と2人で風呂に入った。 自分がいつも使っているナイロンタオルだと、国彦の柔らかい肌を傷つけてしまいそうなので、手にボディソープをつけて泡立て、撫でるようにして体を洗っていく。 くすぐったいのか、国彦はときどき身をよじるってみせるが、大げさに嫌がる様子も見せず、ずっと大人しいままだった。 ほっそりしつつも、ふっくら肉付きの良い両腕を上げさせると、ぽっこりへこんだ脇の下が露わになる。 そこを洗ってやろうと手を滑らせると、国彦が「んっ」と声を漏らした。 その姿がやけに色っぽく感じられて、見ている貞の方が気恥ずかしかった。 手首と足首には、未だにロープの跡が生々しく残っており、自分がしたこととはいえ、貞は国彦を可哀想に感じた。 ──次に拘束するときは、ロープの下に柔らかいタオルでも巻いてやろう。それで少しは痛みが軽減されるだろう ロープの跡が残った手首と足首をていねいにマッサージしてやっている間も、国彦はずっと大人しくしていた。 髪を洗ってやろうとしたところ、国彦が自分で洗いたいと言ってきたので、そこは好きにさせることにした。 ここまで大人しい様子を見ると、大した抵抗はしてこないだろう。 そう考えて、好きにさせてやった。 結構な量のシャンプーを手に取って洗っていたのに、あまり泡立たなかったのを見ると、どれだけ髪に脂が溜まっていたのかよくわかった。 湯船に浸かったまま国彦が髪を洗う姿をずっと眺めていた貞は、国彦の髪質に合うシャンプーを買ってやったほうがいいかもしれない、と考えた。 2人して風呂を出た後は、バスタオルで体を拭いてやった。 加齢によって弾力が失われた貞の肌は、水滴が垂れると皮膚全体にジワリと広がるのに対して、まだ18歳の若い肌は水を弾いて雫となり、体中を伝って垂れていく。 湯上がりの肌が湯気を放ってピンク色に火照る様子は、行為中の女みたいに扇情的でドキリとした。 髪と体の次は、足を拭こうと思って触れてみると、風呂上がりだというのに、結構に冷たかった。 おそらく、国彦は極度の冷え性なのだろう。 貞は元妻から聞いた冷え性対策を思い出し、実践してみることにした。 「風呂上がりの足の指の間に水がついてると、そこから冷えるんだ。拭いてやるから、足を上げろ。」 国彦が、言われるままに左足を上げた。 それを見た貞が小さく跪き、国彦の短くて丸っこい足の指の間についた水滴を拭き取る。 右足も同じようにしてやると、国彦は小さな声で「ありがとう」と言った。 体を拭いてやった後は、スーパーで買ってきた下着と服を着せて寝室に連れていき、手首と足首にタオルを巻いて、その上をロープで拘束すると、ベッドに寝かしつけた。 そのあとで寝室を出て、ドアチェーンをしっかりかけると、貞はリビングに向かった。 ──それにしても、隣の家の息子はどうやって国彦が出した音を聞き取ったんだろう?あのときは取り乱してたもんだから忘れてたけど、このマンションは防音が行き届いてるし、寝室の窓も閉まってたのに… 寝心地の悪いソファに寝転がりながら、昼間に起きたことに対して、貞は今さら疑問を抱いた。

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