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第12話 模擬戦①

 十二階のフロアは真っ白な無限空間になった。  直桜が忍と初めて会った時に対戦した空間と同じだ。  遠くで清人と紗月が既にスタンバイしている。  その姿を横目に、直桜は護と打ち合わせを始めた。 「護、俺の能力、知らないよね? 話したことすらない気がする」 「そうですね。そういう機会もありませんでしたから」  同じように護の戦闘形態を直桜は知らない。 「化野は基本、武器や素手で敵を撃破するシンプルな戦法だ。むしろ、直桜の雷と水の使い方を打ち合わせたほうが良い。今回なら、そうだな」  清人と紗月のポジショニングを確認して、忍が耳打ちする。  直桜の霊力の特徴や使い方を、忍がアドバイスしてくれた。 「すごい力ですね。直桜なら戦闘部署でも活躍できそうです」  護の目がワクワクしている。いつにない表情だ。 (もしかして、戦闘系の部署に興味あるのかな)  前に清人が話していた部署移動の話も、振ってみたら本人は案外、ノリノリなのかもしれない。 「単体でも弱くはないが、強い前衛が居てこそ活きる力ともいえる。それは今回の清人も同じだ。あくまで紗月のサポートに徹するだろう。直桜は清人の動きをよく観察しておけ。化野は紗月に集中しろ。でないと、死なないまでも大怪我になりかねん」  忍の言葉に、思わず顔を顰めてしまった。 「練習なのに、そんなことになるの?」 「練習でも紗月は本気で来る。手練れの打ち合いに割って入れば、全員が怪我では済まん。俺でも手は出せんからな」  背筋が伸びる思いがして、直桜は頷いた。 「化野、最初は例の大鎌を使ってみろ。戦いながら、良いと思う武器に変えていけ。今回はその手法で、一番馴染む獲物を探ってみろ」 「わかりました」  護が真剣な顔で頷いた。  きっと護はこういう訓練を、もう何度も受けているのだろう。  忍に指示された位置に立つ。後ろに立った直桜より三メートルほど前に護が陣取った。 「じゃぁ、始めるぞ」  忍が赤い三角旗を振り下ろした。開始の合図だ。  瞬間、直桜は両手の指の先から雷の糸を展開した。長く細く、なるべく広範囲に張り巡らす。  ちらりと前を窺う。清人は立ったまま動いていない。  紗月の姿はすでにない。護の姿も見当たらない。  遥か頭上で、二人は既に打ち合っていた。  振りかざす大鎌を、紗月は余裕で避ける。まるで空中に足場でもあるように飛び回っている。 (足下に霊力を凝集しているのかな。それじゃ、消費が激しくないか? 紗月なら可能? いや、違う。空中に何かある)  目を凝らすと、足場がある。紗月の動きに合わせて、ブロックのような小さな結界が浮かんでは消えている。紗月の足が動いた瞬間にブロックが浮かび上がる。 (アレ、清人の結界? 大きな足場を作るんじゃなくて、一個一個作ってる……、そうか、その方が行動範囲を悟られにくいし、紗月が動きやすいから。いやでも)  一朝一夕で、できる技じゃない。少なくとも清人が紗月の動きを読んで、紗月が清人を余程に信頼していないと出来ないコンビプレイだ。  足下の清人に視線を向ける。紗月と護の打ち合いを見詰めながらも、直桜の気配を窺う余裕がある。  こちらに清人の視線が向く。清人が直桜に向かい、ニヤリと笑んだ。 (二人で戦うって、こういうことなんだ)  空中戦をしていた護と紗月が降りてくる。 「やっぱり大鎌はリーチが長いね。他にお気に入りの武器はないの?」  紗月は護に合わせてなのか、槍を使っていたようだ。  護が大鎌を収めて、短剣を霊現化した。 「今までに使っていたのは、これですが」 「一人ならアリだけどね。今じゃない気がするね」  護も、そう感じているのだろう。  表情が曇って見える。 「まぁ、いいや。とりあえずやってみようか」  紗月が獲物を変える。日本刀よりは短い、小太刀を握った。  さっきまで空中でやっていた打ち合いが、地上で始まる。  紗月は直桜の雷の糸を巧いこと避けながら、護との距離を詰めていく。  護が触れても感電しないが、邪魔にならないように糸を避ける。    何かが護に向かい、飛んでくる気配がした。直桜は、とっさに水玉をあてて相殺する。 (なんだ、今の。空気砲? 清人の方から……)  圧縮した空気の塊が砲弾のように飛んでくる。護を狙う砲弾を、直桜の水の玉が打ち壊す。 (きりがないし、水が当たると、どうしても飛沫が飛ぶから、護の邪魔になる)  絶え間なく、とんでもない数を打ち出す清人を止める方法を考える。 (護の邪魔にならずに清人の空気砲を止める方法、俺に出来る方法)  雷の食指を動かす。指から伸びた雷の先が二股になり、更に分かれる。  細く小さな稲妻が、空気砲を突きさすと、そのまま消滅した。  遠くで清人が口端を上げたのが分かった。 「いいじゃん」  清人の口が、そう動いた。  直桜は、雷の食指から小さな稲妻を作った。何本もの稲妻を上から空気砲に投げ下ろす。紗月の足場をも奪う。 「直桜が乗ってきたね。化野くんは、どうよ」  直桜の稲妻をいともあっさり避けて、紗月が笑う。  いまいち攻めきれないでいる護が、もどかしい顔をする。 「化野くんの右手はさぁ、鬼の力を凝集してるんだよね? 折角、霊現体が作れるんだから、右手の延長になるような武器、考えてごらん」  打ち込まれた小太刀を短刀で滑らせ、避ける。 「右手の、延長?」 「そう、自分の力を全部乗っけても壊れない。むしろ増幅してくれるような、使い勝手がいいヤツ!」  一瞬、考え込んだ護に、紗月の小太刀と清人の空気砲が同時に迫った。 「護!」  直桜が、左手を上から下に滑らせる。  護と紗月の間に、氷の壁が降り落ちて、刀と空気砲を遮った。  後ろに下がった護が直桜を振り返る。 「ありがとうございます、直桜」 「全部バックアップするから、護は集中して!」  直桜に視線を向けた護が、目を見開いたように見えた。 「やってみます」  その目が少しだけ笑んで、すぐに紗月に向かていった。

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