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第14話 十月一日
一週間の清人の訓練は考えていたよりずっとハードだった。
普段はチャラい大人ぶっている清人だが、訓練は本気だ。アドバイスが具体的で実践向きだからわかり易い。改めて清人の凄さを思い知った。
十二階で訓練して十三階に帰って飯を食って寝る。そんな日々を繰り返しているうちに気が付けば一週間が過ぎていたような感じだった。
その間は護が紗月の護衛に付いていた。
護は護で新しい武器の使い方を一緒に考えてもらっていたらしい。
良いタイミングだということで、忍の提案もあり、この後は護との連携訓練に入る予定だったが。
何時の間にか十月一日になっていた。
「十三時に副長官室だ。直桜の正式な13課入職と、化野と直桜の正式なバディ契約を結ぶ」
試用期間の三か月は、直桜が思っていたよりあっという間に過ぎた。
皆で昼食をとりながら、直桜は改めてバイト期間を振り返っていた。
「早かったけど、よく考えると中身が濃い三か月だったなぁ」
改めて振り返ると、色々あったなと思う。
バイトの面接で事務所を訪れたのが、大昔のように感じられた。
あの日、護に出会って初対面でプロポーズされた。総てはあの日から始まった。
「今でも夢を見ているみたいです。誰かと正式なバディ契約を結べる日が来るなんて、思っていませんでした」
護が俯きがちにはにかんだ。
「護はバディ探し、苦労してきたからな。俺もまさか、お前らがここまで来るとは思ってなかったよ」
そう話す清人の顔には、嬉しさより安堵が滲んで見えた。
護の中の呪詛になりかけた魂魄を祓うため直桜を探し出し、試用期間の短期バイトを提案したのは、清人だ。
「よく考えたら、清人のお陰でもあるんだね。あの時、清人が俺を探して無理やりにでも引き留めてくれなかったら、俺、始めてすらなかったと思うし」
「いや、直桜はきっと始めてただろ。俺の行動は只のきっかけ。お前らは、そういう二人だよ」
清人の言葉に、直桜は護と顔を合わせた。どことなく照れくさい。
「化野くんは見違えるほど強くなったもんねぇ。この前、迎えに来てくれた時、一瞬、別人かと思ったよ。こんな最高最強バディができたら、そりゃ強くなるわ」
紗月に褒められて、護が耳を赤くしている。本気で嬉しそうだ。
護が褒められると、直桜も嬉しくなってくる。
「部屋に制服を準備してあるから、確認してくれ。藤埜と紗月も一緒に移動するから、着替えておけよ」
忍の何気ない言葉に、紗月がオムライスを頬張る手を止めた。
「え? なんで私まで?」
「バディの正式契約には後見人が二名必要だ。班長の俺は除外だから、ちょうどいいだろう」
「何がどうちょうどいいのか、わからん。私は13課の人間ではないが?」
「後見人は13課の人間に限らない。事情を理解する者が他にないから、13課の人間を本人たちが選んでいるにすぎん。問題ないだろう」
忍の説明が的確過ぎて、紗月が言葉を詰まらせている。
「紗月さんに後見人になってもらえるのは、私は嬉しいです」
護の言葉はダメ押しになったのか、紗月が言葉を押し込むようにオムライスを口に突っ込んだ。
「清人は俺たちの仲人みたいなもんだもんね。今後もよろしく」
「おー。死ぬまで面倒見てやるぞ。契約式が終わったら、護と連携訓練な」
ぐっと現実に引き戻されて、顔が引き攣った。
「清人って普段はチャラいくせに、訓練は厳しいよね。忍より優しくない」
「あの程度で根を上げるのか? 直桜は軟弱だねぇ。現代っ子は、これだから」
にししと笑う清人をじっとりと睨む。
「私は楽しみです、直桜との連携訓練。この前の模擬戦も楽しかったですし」
護がキラキラした瞳でワクワクしている。
やっぱり、実践が好きなんだなぁと実感する。
「連携するなら、また模擬戦する? 相手がいた方がノるでしょ」
紗月の提案に清人が首を振った。
「まずは二人のコンビネーションを整えるとこからな。模擬戦はその後だ。コイツ等はお互いの力を知らな過ぎるから、把握するとこからやんないと」
説明する清人を紗月がニヤニヤした目で眺めた。
「清人も先輩になったんだねぇ。後進を育成する姿とか、なんか新鮮だよ」
清人があからさまに顔を赤くして、目を逸らした。
「俺ももう、いい歳なの。いつまでもガキじゃねぇんだよ」
「そうか、そうか。成長してくれて、お姉さんは嬉しいよ」
「なんだよ、それ」
不貞腐れる清人を紗月が嬉しそうに眺める。
その目は大事なものを慈しんでいるように、直桜には映った。
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