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第44話 【R18】八張の四魂術

 警察庁から少し歩いた場所にある小さな公園に、清人は立っていた。  平日の昼間のせいか、人が少ない。手入れをされている公園でもないから、子供の姿もない。疲れたサラリーマンが時々、ベンチに座って休憩している程度だ。  普段は滅多に吸わない煙草をくわえて、煙を吸い込む。  久し振りに胸に入り込んできた煙は、ただ苦しいだけだった。 「昔も、好きで吸ってたわけじゃねぇしな」  どうしてこんなものを好き好んで吸う人間がいるのかと、呆れる。 「ま、何が好きで嫌いかは、人それぞれか」  呟いた言葉を煙と共に吐き出した。  優士から流し込まれた言霊の内容を、清人は思い返していた。 (直桜に流された内容とは違った。当然か。重田さんは、俺にやらせたかったんだろうからな)  優士が直桜に流し込んだ言霊術は、優士自身に関わることだった。  清人の中に流し込まれた言霊は、誰も知らない英里の秘密だった。 (どっちもSOSには違いないが。枉津楓の反転の呪禁術。言霊師の重田さんから言葉を奪うだけの強さがある。封じの鎖も楓の仕事らしいし、封印術が使えるんだな)  呪禁術は本来、呪術を封じ祓う術だ。久我山家は伝統的な呪禁師の家系として有名だ。だが同じくらい、裏で呪術を扱い禁術にも手を出しているという噂も界隈では有名だった。  楓は母親の実家の術を継承しているのだろう。 (傀儡師で封印術を使う反転の呪禁師。どれだけ優秀なんだよ、反魂儀呪の巫子様)  正当な方法で術を行使するより、反転の術法を用いる方が、同じ術でもより強力な術となる。  だからこそ、神を縛る鎖を作れるし、毒を作れるのだろう。 「枉津日、聞こえるか」  自分の中に確かに感じる神に声を掛けた。 (ああ、聞こえるぞ、清人)  顕現せずに、枉津日が清人の中で返事をした。 (俺のやり方は、きっと正しくないけど、付き合ってくんない?) (嫌だと言ったら、やめるのか?) (やめないねぇ、残念なことに。俺だってやりたくないけどさ、仕方ないよねぇ) (仕方がないのぅ。頼まれ事を断れぬお人好しなれば。其こそ吾が愛する清人じゃ) (愛が深くて嬉しいよ。種は撒いておくからさ。気付いてもらえるよう祈ろうぜ)  遠くに気配を感じた。  短くなった煙草の最後の一口を吸い込む。 (あとは上手に重田さんの言霊術を逆手に取ってもらわないとな) (清人、一つだけ告げるぞ。清人の命が危険と判ずれば、吾は総てを壊す。吾は直日神とは違う。黄泉の穢れより生まれし災禍の神じゃ。忘れるなよ)  枉津日が清人の奥深くに沈んだ。 「そうだったねぇ。穢れから生まれた神に毒なんか、きかねぇよな」  スマホを取り出し、短いメッセージを送る。  煙草を投げ捨てようとした腕を、後ろから掴まれた。 「ポイ捨ては良くないよ。そもそもこの場所は、喫煙禁止だろ」  携帯灰皿の口を開けて差し出された。 「用意がよろしいことで。んじゃ、遠慮なく」  煙草の吸殻を放り込む。  携帯灰皿ごと、男の手が握り潰す。黒い炭と化した物体が、塵になって消えた。 「俺を待っていてくれたんだろ。自分から会いに来てくれるなんて、嬉しいね」  後ろから肩を抱かれて、げんなりする。 「そっちが勝手に会いに来たんだろぉ。反魂儀呪のリーダーに抱き締められても、俺は嬉しくねぇよ」  八張槐が、清人の耳元で笑んだ。 「でも、俺に会いたかっただろ?」  槐が清人にぴたりと体を添わす。 「アンタでも枉津楓でも、どっちでも良かった。それ以下の雑魚だったら、取っ摑まえて終わりにするつもりだったよ」 「清人には俺の方がいいと思ったんだけどな」 「名前で呼ぶの、やめてくれない? なんか、気持ち悪ぃわ」  呆れた声を出すと、槐の手が前に伸びた。  清人の股間をするりと撫でる。 「楓は直桜以外、抱きたがらないから、今日は俺だよ」 「アンタも護がお気に入りじゃなかったの? てか、なんでそう執拗に俺の貞操を狙ってくるわけ?」  槐の手が清人の股間を服の上から優しく撫でる。  耳を舐められて、吐息がやけに敏感に纏わりついた。 「護は好きだよ。けど俺は、フリーセックス派だから。愛と快楽は別物なんだ。清人も同じだと思ってたけど」 「っ! んっ……はぁ」  弱い刺激のはずなのに、腰が疼く。  後ろから槐のモノを押し付けられて、余計に反応する。 「好きな女に何年もお預けされて、可哀想にね。我慢して溜めても良いことないだろ。出さないと、頭おかしくなるよ」 「うるせぇ……、相手はお前じゃなくていいよ」  弱い快楽が堪っていく。 槐の手が服の中を弄り、男根を直接扱き始めた。 (やば、本気で気持ちよくなってきた。早く、しねぇと。早く……)  体を後ろに倒して、槐に擦り付ける。  倒れそうになる体は、槐が支えてくれる。快楽に負けそうになる振りをしていればいい。 「稜巳の居場所なら、聞けば教えてあげるのに。それとも、もうわかった? もう少し強く、抱き締めてあげた方がいいかな」  片腕を伸ばして槐が清人の体を抱き寄せる。  清人は大きく息を吐いた。 「わかっててやってんのかよ。なら正確な情報じゃねぇかもな」 「最初から体を預けてくれるなんて、おかしいと思うだろ。清人なら俺が背後に立つ前に避けられたはずだからね」  槐の扱く手から、ねちねちと卑猥な音が漏れ始めた。カウパーが流れて滑りの良い手が、余計に気持ちがいい。 「体をくっつけただけで相手の情報を盗めるって、どんな術? 惟神の力じゃないだろ? 思考を読むのとは違うの?」  質問攻めと扱かれる気持ちの良さが、いい加減鬱陶しい。 「答える義理はねぇし、大体わかったから、もういいや。手、止めてくんない?」  自分の男根を指さす。 「折角ここまでしたんだから、イかせてあげるよ。出したら清人が、俺のこと好きになるかもしれないだろ」 「それは、ねぇよ。重田さんといいアンタといい、反魂儀呪ってなんでそう男を抱くの好きなの? 俺って、そんなに人気者なワケ?」 「清人なら恋人にしたい程度には、好きかな。優士には渡したくないね」 「へぇ、そう。お前に好かれる理由が、わからねぇけど。とりあえず俺は好きになれれそうにねぇよ!」  足に霊力を集中する。  両腕を抱く槐の拘束を、圧縮した空気砲を放って弾いた。  同じように足に圧縮した空気圧で飛び上がろうとした清人の体から、不自然に力が抜けた。 (……え? なんだ、これ。急に霊力が、掻き消された?)  崩れそうになった清人の体を、槐が腕を掴んで引き上げた。 「普通なら、今ので逃げられたんだけどね。大事な情報を忘れてるよ、清人。俺は、これでも八張家の長男だ」  はっと気が付いて、振り返る。  槐が口端を上げて、ニタリと笑んだ。 「桜谷集落の五人組の一家・八張家が一家相伝で伝えるのは、四魂(しこん)術。桜谷家の直霊(なおひ)術と対を成す術だ。惟神の力を抑制する術、だよ」  体を向き合わせて、槐が清人の体を抱き寄せた。  尻を抑えて股間をぐりぐりと押し付ける。 「四魂を抑え込まれたら、普通の人間でも霊力は使えなくなる。割と無敵な術だけど、近距離でないと効果がないのが難点かな」 「不良息子の割にちゃんと修行してんだ。どうせ広範囲にも使えるように、なんか仕込んでんだろ。陽人さんの霊銃みたい、にっ……んっ!」  清人の言葉を遮って唇を覆われ、舌を吸われる。  一緒に霊力も吸い出されているように、力が抜ける。  がくんと大きく視界が揺れて、目の前の槐の顔が歪んだ。 「優士の言霊、覚えてる? 今、絶頂したら、清人は俺が大好きな俺の犬だよ」 「やっぱり、お前の指示、かよ、アレ。最高に、趣味が悪ぃな」  槐の手が清人の男根を容赦なく扱く。  腰が勝手に前後に動いてしまう。  否応なく昇ってくる快感の波に耐える。 「ぁ、はぁ……、んぅっ」  快楽に耐えるのを嘲笑うように、槐の舌が清人の顎を舐め挙げた。  それすらも快感で、体から力が抜ける。  凭れ掛かる体を、槐が支えて、抱き締める。  支える腕が後ろに伸びて、清人の尻を撫でた。   「ぃっ、やめっ」  服の中に侵入した指が後ろの口を撫で上げ、クイクイと何度も刺激し、押し入ろうとする。 「ちょっとキツいな。最近、後ろしてなかった? 清人ってタチ? 優士には抱かれてたんじゃなかったっけ? 慣らせばいけるかな」 「やめ、ろ、さわんな……」  抵抗しようにも、力が入らない。言葉も、自分でも情けなくなるほど弱々しい。  押し退けようとする手は、必死に槐の服を掴むだけだ。まるでしがみ付いているようにしか見えない。 「優士の言霊、祓えたら良かったのにね。枉津日神には惟神を殺す毒がきかないはずだし、同じ原理なら祓えるのに」 「そこまで、知って……っ、ぁあ!」  槐の指が深く入って、清人の中を擦り刺激する。  ビリっと強い快感が、背筋を駆け上った。 「四魂術で霊力も神力も使えない清人は、只の人だ。今の清人に呪詛を掛けたら、どうなるかな」 「や、ぁ、んっあぁ!」 「もっと気持ちよくなっていいよ、清人。俺を好きになるくらい、気持ちよくなってよ」  耳から流れ込む言葉が呪詛だと、すぐにわかった。枉津日神が入り込む前に浄化してくれる。  前を扱かれ後ろを刺激されて、足がガクガクと震える。 「なんで、こんなに、感じてっ、ぁっ」  体が前に傾いて、勝手に槐に縋り付く。 「久し振りだからじゃないの? 昨日、優士に散々、悪戯されたのに抜けなくて余計溜まっちゃった?」 「重田さんに、なんか、させた……?」  昨日の優士にも、手で扱かれただけだ。  どんなに気持ちが良くても、あそこまで狂わない。 「清人がいっぱい気持ち悦くなれるように工夫してとは、伝えたよ」  槐が耳元で囁く。掛かる吐息まで、快感を煽る。 「やっぱ、言霊、仕込みやがった、な、んっ!」  ビクンと腰が震える。  気持ちのよさで息が合って、視界が霞む。 「優士の言霊、やっぱり祓ってないね。それとも呪詛がきいてきたかな。清人が気持ち悦くなってくれれば、俺はどっちでもいいけど。立ってるの、辛い? ホラ、俺の膝に座っていいよ」  促されて、体が勝手に槐の言葉に従う。  いつの間にか槐の膝の上に座っていた。 「はぁ、ぁ、ん、ん、ぁぁっ」  強い刺激が続くのに、達する前に緩められて、快楽の波が繰り返す。  喘ぎ声が、否応なく漏れる。 「そろそろ、頭の中、気持ちいいことしか考えられなくなってきたかな。蕩顔可愛いよ、清人。もっと腰、突き出して。悦くしてあげるから」  服にしがみ付く清人の唇を槐が食んだ。  答えるように、舐めあげて、口付けを返す。言われた通りに腰を上げた。 「ぁ、ぁ、はぁ……」  顎が上がって、息が速くなる。  頭の中が、ぼんやりとし始めた。 「本当に、可愛いなぁ。自分から会いに来て、こんな顔を俺に晒して。清人は今日、俺に拉致られるために来たんだろ。抵抗する振りなんか、時間の無駄なのに」  耳元で槐の笑い声が木霊する。  槐の言葉は耳に入ってくるのに、何も考えられない。  気持ちが良くて、腰が動く。   「はぁ、ぁ、もぅ、イきたぃ……」  物足りない刺激がもどかしくて、槐の手に自分の手を重ねて扱く。  槐の手が清人の男根を握って、動きを止めた。 「勿論、イかせてあげるよ。でもその前に、確認しないと。枉津日神は、どうしてる? 清人の危機なのに、全然動かないね」  八張の四魂術は封印ではない。あくまで神力を抑制する力だ。  直霊術が惟神を活気づけるのに対し、四魂術は抑制する。どちらも本来は惟神を守るための術として存在する。  枉津日神が全く動かない状況を不審がる槐の判断は正しい。 「重田さんが、動かすなって、いった、から」  息を吐く合間に、返事をする。  顔を摑まえて、槐が清人の顔を眺めた。 「ふぅん、言霊で惟神自身に神を抑えさせたんだ。優士の言霊が一番、惟神に効果あるね」  槐がまた清人の男根を扱き始めた。  後ろの口に突っ込んだ指を二本に増やす。 (信じたか……、一番、疑われる部分、クリアだ)  快楽で飛びそうになる意識を何とか繋げながら、安堵した。  優士の言霊術でそんな命令はされていない。清人のアドリブのフェイクだ。 「絶頂したら俺の従順な恋人になろうね、清人」  耳の中に言葉を流し込まれる。これも呪詛だ。 (めんどくせぇとこ、言うな。犬にしかならねぇよ。……犬もコイツにとっては恋人みたいなもんだろうけど)  呪詛は枉津日神が祓ってくれるから問題ない。  返事とも喘ぎともとれない声を上げて、誤魔化した。 「じゃ、出していいよ、清人」  耳を舐められて、槐の両方の手が動きを増す。 「あ、ぁぁ! イク、も、出るっ!」  擦られる中の刺激が脳に響く。  一度沈んだ快楽が大きく畝ってせり上がった。  絶頂の快感が男根の先から吹き出した。  ドロドロに熱い液体が、槐の手を汚した。 「ぁ……、はぁ、ぁ……やっと、出せた……」  槐の首に縋り付いて強く抱き締める。 「昨日からお預け、辛かったなぁ。気持ち悦くなれて、偉い偉い」  槐が清人の髪にキスをする。  知らない感情が流れ込んできて、頭と心を上書きしてくのが分かった。 (重田さんの言霊術、槐相手に発動したな。そうじゃないと、意味がないけど。あー、俺しばらく、この男を好きになるんだ。嫌だなぁ)  消えていく自我で、そんなことを考えた。  槐が執拗に確認していた優士の言霊術は、清人の中に残ったままだ。  枉津日神にも敢えて祓ってもらっていない。 (直桜、護……、あとは頼んだ……)  槐の顔に手を伸ばす。  唇を貪って、舌を割り入れ、槐の舌を絡めとった。 「好き、槐、もっと、シよ。何でもするから、俺を、愛して」  槐が清人を見下ろしている。 「ふぅん、清人にとっての従順て、こんな感じ? まるで、犬みたいだね」  槐が意味深な顔で笑んだ。 「この状態で拉致られて、清人はちゃんと、やりたいこと出来るかな。お手並み拝見だね」  清人に口付けて、抱き締める。  槐の姿は清人を抱いたまま、空気に溶けるように消えた。 【補足情報】  清人はずっとチンチン狙われてて可哀想ですね(笑)。ここでの清人も言霊術の影響で快楽底上げされていますが、槐はきっと巧いと思うので、後ろは気持ち良かったんじゃないかなって……。その辺りは今後の展開でまた描写する機会があるかなと思います。

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