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Rendezvous01 ぽんこつナイト11  アヤマチの熱

 翌朝、ミチルはベッドの上で目を覚ました。 「はれ……?」  ものすごく喉が渇いていた。 「はぅ……」  声も掠れる。一晩中ジェイに触られて声を上げ続けたからだ。なのにあいつは暢気に寝ていやがった。  あんなところや、ああんなところまで一通り触られて、ミチルは何度も気を失いそうになった。 「ミチル?起きたのか?」  ジェイの声がしたので、ミチルはガバっと起き上がってその顔を睨みつけてやろうと思った。 「顔色が良くないが、大丈夫か?」  だがそこには、朝日を浴びてキラキラ輝くもの憂げなイケメンの顔があった! 「はわっ!」  ミチルはもんどり打ってノックダウン。  美しい。美しすぎる。  あの顔に一晩中すりすりされていたなんて……  ありがとうございましたぁああ!!  ……って、言うてる場合か!なんでオレってそんなに頭お花畑なの!?  この世界に来てから、興奮することばっかりで理性のタガが外れてる気がする。 「風邪でも引いたのだろうか?目も充血しているな……」  ジェイはミチルの隣に腰をかけた。心配そうにミチルを見つめている。  彼もまた寝起きなのだろう、少しはだけたシャツから見える肌にミチルは釘付けになった。  ふおおぉ……昨夜と同じ匂いがするぅ。  ジェイからも、ミチル自身からもジェイの匂いがするようでミチルは目眩がしそうだった。 「熱はあるか……?」  ジェイが右手を顔の前に差し出すと、ミチルはビクッと肩を震わせて固まった。  その手が、その大きな手がオレのあんなところをずっと触ってたんだと思うと、昨夜の痴態が鮮明に蘇る。  ああ……なんか、もうダメ。  クラクラします。ろれつも回らないれす。 「ミチル!ミチル!?」  ジェイが呼んでる……  でもごめん、動けないよ……  ミチルはそのまま意識を手放した。 「う……」  次にミチルが目を覚ますと、日はすっかり傾いているようだった。  随分と寝たのだろう、ミチルの頭はスッキリしていた。 「ああ、ミチル。起きたか」 「ジェイ……?」  ミチルはゆっくりと起き上がった。ジェイもまたベッドに腰かけてミチルの額に手を置く。 「うん、熱は下がったな。気分はどうだ?」 「スッキリ、した……」  それもそのはず。ミチルはただの寝不足だっただけなのだから。  興奮しっぱなしで一時的に知恵熱が出ただけなのだ。  だが、それを知る由もないジェイは嬉しそうに笑った。 「そうか、良かった。きっと知らない世界にやって来てしまったから、とても疲れていたんだろう」  わあ……慈愛に満ちたイケメンて神々しいんだあ。  ミチルが見とれていると、ジェイは少し落ち込んだ声音で言った。 「それなのに、私が気づいてやれずに済まない……」 「そそ、そんなことないよ!」  ミチルは慌てて首を振ったが、よく考えてみれば全てはこいつの所業のせいなのだ。  だがそんな事実を知らないジェイは少し厳しい顔で続けた。 「だから私に倣って床で寝たりしてはいけない」 「ほへ……?」 「私がベッドを譲ったのに気を遣って、同じように床で寝たんだろう?だから風邪を引いてしまったんだぞ」  あ、そう来たか。ぽんこつナイトはそういう結論なのね。 「いや、違うよ?あの、眠れなくてね、ジェイはどうして熟睡できるのかなーって、つい顔を覗いたらね……?」  ミチルは昨夜の弁解と、ついでに文句のひとつも言ってやろうとした。  だが上手く言葉を繋げられず、結局寝込みを襲ったっぽくなってしまった。  それでミチルはどんどん混乱してまくし立てる。 「ちょっと覗いただけだよ!?月明かりに照らされてかっこいいとか思っただけだよ!?そしたら、急にジェイがオレの腕を引っ張ったんだよ!」 「──私が?」  ミチルはぶんぶんと勢いよく頷いた。 「君を寝床に引きずり込んだのか?」  いやん!なんて卑猥な表現!  鼻血が出ちゃう! 「……」  ミチルは赤面して黙ってしまった。そしてそれはジェイも同様だった。 「それは──すまなかった」  ジェイも頬を赤らめて頭を下げる。照れた様もイケていた。 「いえいえ、こちらこそ。顔を覗き込んでしまったので……」 「それで、私は君に何かしなかったか……?」 「えええっ!?」  やだ、ちょっと覚えてるのこの人!?  どうしよう、どうしたらいいのかもうわかんないんだけど!  ミチルが狼狽えていると、ジェイはそれで察したのか肩を落として話し始めた。 「済まない、私はどうもイビキと寝相が酷いらしいのだ」 「──は?」 「気をつけようとは思っているんだが、全然覚えていなくて……」  覚えてたら半殺しにするけどね!!  ミチルは心の中でそんなことを考える。 「見習い時代も宿舎の仲間達を酷い目に合わせたようでな……」  あああ……こいつ、同期相手に無双したんだ……  ミチルは当時、同じ目に合ったであろう人物達に思いを馳せた。 「本当に済まない」  すごく落ち込んでるけど、自分が実際ナニをしたのかは知らないんだろうなあ。  ていうか、真実を知ったらこの騎士は腹でも切るんじゃないだろうか。 「たた、大した事ないよ!」 「ミチル?」  ミチルはジェイの心を守りたかった。  こんなに優しくしてくれた人に、残酷な真実なんて必要ない! 「オレ、ぜ、全然平気だったから!気にしなくていいよ!」  ミチルの声は少し震えていたので、それが痩せ我慢だとジェイにも伝わったかもしれない。  それでもジェイは大きく頷いて笑った。 「……ありがとう」  イケメンの微笑み!  心臓直撃で、ミチルの心は内部破壊! 「にゃー!!」  おかげで昨夜のことは綺麗サッパリ忘れることが出来ました……

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