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Rendezvous02 ホスト系アサシン17  夕陽に向かって走れ!

 日差しが少しオレンジ色になった頃、ミチルはようやく意識を現実に向けた。  アニーが出て行ってから数時間が経っている。その間、ミチルは床にへたり込んだまま、ずっとアニーの事を考えていた。  今夜、アニーはとても危険な仕事をする。自分のために──などと思い上がるつもりはない。  恩人の命令ならアニーはミチルの事がなくても応じているのだろう。  実際には、これが初めての危険任務でもないだろう。  だけど、出て行ったアニーの笑顔がとても悲しかった。  次に会う時はもう、別れが確定してしまう。  今度アニーがその扉を開けたら、最後なのだ。  そんな別れの瞬間を、このまま、ここで、待てと言うのか。 「ムカつく!!」  ミチルは威勢よく立ち上がった。それから着ていたアニーのシャツを脱ぎ捨てる。 「勝手に決めんな、セクハライケメンめ!出て行くかはオレが決めるんじゃい!」  この時、ミチルは怒りのあまり自分が居候であることを忘れていた。  だがもはやそれは些細なことだ。急いで洗面台に行ってタオルで体を拭いた。それからミチルは馴染んだパーカーを再び着る。  それでなんとなく自分を取り戻した気がした。 「よーし、準備オッケー!アニーのやつに今までの借りを返しに行くぜ!」  アニーと離れたくない。  ──受け入れてくれるの?  あの日のアニーのまなざしを思い出す。あんなに強い人がこんなオレに縋った。  ──一緒に罪に堕ちてくれるんだ?  あんなにオトナなのにオレみたいな子どもに縋ったんだ。  このまま放って別れられないよ! 「待っとけ、金髪ハンサム野郎!!」  パーカー(戦闘服)を身にまとったミチルは、勢いのままアニーの酒場を飛び出した。 「おじさんおじさんおじさん!」 「ぎゃあ!すみません!」  ミチルのあまりの剣幕に、仕事帰りの酔っ払い(予定)おじさんは咄嗟に謝った。 「おじさんおじさん!アニー、どこにいるか知ってる!?」 「んあ?ああ、あんたこの前の!なんだい、あいつに捨てられたのかい?」 「ハァ!?捨てられてねえし!上等だ、もし捨てるならオレの方からやってやんよ!」 「やだあ、絡まないでくれよお!おじさん今日はお金持ってないんだよお!」  ミチルの絡み方は完全にヤクザの情夫のソレである。かつてアニーが脅したこともあっておじさんはブルブル震えていた。 「そうじゃなくて!アニーの、えっと、ボス?みたいな人ってどこに住んでんの!?」 「ヒイィ、勘弁してくれよ!あの方に睨まれたらおじさん生きていけねえよお!」 「いいから名前と住所教えろぉおお!」 「な、名前なんてとんでもねえ!いいか、ボウズ、あの方の名前なんて知ろうとするな。『赤いサルビアの人』って呼ぶんだ」 「長い!たった一人の私のファンみたいなネーミング覚えられっか!」  ミチルはすっかり頭に血が昇っていて、おじさんの胸ぐらを掴んで喚いた。 「意味がわかんねえよお……許してくれよお、この前のことなら謝るからさあ」 「じゃあ、住んでるトコは!?」 「あの方なら本拠地はスプレンデンスだよお」  その街なら聞いたことがある。アニーの生まれた街だ。涙目のおじさんをようやく解放して、ミチルは更に聞いた。 「そこって、どうやって行くの?」 「そうさなあ、乗合馬車を乗り継いで二日ってトコかなあ」 「ああ!?そんな遠い所なワケないだろ!アニーは今夜仕事すんだぞ!!」 「ヒィ!仕事!?……それならこの辺にあの方の別宅があるよ。そこじゃないか?」 「それだ!おじさん、ナイス!」  ミチルは逸る気持ちが抑えられずにその場で足踏みを始めた。 「どうやって行くの?」 「ボウズの足ならすぐさ。このまま西に向かって行きな。大きな川のほとりだよ」 「川!ナイス目印!おじさん、ありがとう!」 「まあ、頑張ってヨリを戻しんさいよ」  ミチルはおじさんに手を振って走り出した。夕陽の見える方向へ。

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