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第4話

 アルスカは事の次第を語った。 「ケランと別れた。それで、家を出たんだ。この国に住むのは私の夢だったから、心機一転しようと思って」  フェクスは目を見開いた。 「なんで別れたんだ? あんなに仲良かったのに」 「ケランに浮気された」 「それくらい……」  フェクスの失言を遮って、アルスカは言い切った。 「許せない。私たちは男同士で、子どもを望めないんだ。気持ちがないなら、一緒にいる理由がない。死ぬ気で働けばひとりで生きていくのには困らないさ」 「でも……」  まだ納得しないフェクスに、アルスカは哀れっぽい声を出して懇願した。 「頼むよ。私みたいな異邦人がこの国で仕事を得るためには、あなたの協力が必要不可欠なんだ」 *  アルスカとケランの出会いは今から16年前になる。2人はこの国の大学で知り合った。彼らは同じ留学生の身分であったが、その性質はずいぶん異なっていた。  アルスカは言語を学ぶ奨学留学生であった。奨学留学生とは成績優秀者のことである。彼らは学費の支払いを免除され、また生活費としていくばくかの金が支給される。彼らの多くが貧しい国の出身で、立身出世を目指してがむしゃらに机にかじりついていた。  一方、ケランは裕福なガラ国の金貸しの家の次男で、留学にかかる費用はすべて彼の親が支払っていた。彼は経済学を専攻していたが、勉学はそこそこにして、親の監視がない異国の地で酒を飲み、賭博場に出入りをして、ときには憲兵の世話になることもあった。  このような対照的な2人であったが、あるとき講義で隣に座ったことから友人になった。同性愛は、この宗教が強く国民を支配しているメルカ国では禁止されている。しかし、東方とケランの出身地であるガラ国では認められていた。そして、男を求めている空気というのは、お互いにわかる。  留学生の寮には男しかいない。禁欲的な寮内で同性愛というのはそれほど珍しくもなかった。  彼らは惹かれ合い、ついに愛し合うにいたった。  言語を学ぶにはまず恋人作りから、という先人の言葉は正しい。アルスカは大学で4年掛けてメルカの言葉を話せるようになった。それに対して、ケランの母語であるガラ語を理解するのには半年で十分であった。  アルスカは三か国語を身に着けたことで、自分が立派な外交官になれると信じた。  しかし、それはアルスカの恋ゆえに叶わなかった。卒業と同時に、ケランはアルスカに母国に来るように言った。ケランの家は金貸しをしていて、ケランも国に戻ればその仕事をする。収入は一般的な商人や農民よりはるかに高水準だ。彼はそのうち自分の店を持つつもりだと言った。 「これから、東方もメルカも豊かになって、取り引きが増える。アルスカは俺の店で通訳として働けばいいじゃないか」  この言葉にアルスカは頷いた。外交官の夢を捨てても、ケランと共にいたかった。若い彼らは恋に燃え上がり、そのまま手と手をとってメルカ国を出でガラ国へ向かった。  その恋が鎮火した後のことなど考えもしなかった。

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