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第10話

 フェクスが死にかけてからというもの、アルスカは献身的に彼を支えた。その原動力は罪悪感でもあったし、別の気持ちでもあった。アルスカはその気持ちに気づかないふりをしていた。  あのあと、逃げ出したケランは見知らぬ街で憲兵に捕縛された。ガラの地では金持ちの彼も、ここではただの異邦人だ。彼はメルカ人を害した罪で厳しい罰を受けることになる。  獄中から、ケランは何通もの手紙をアルスカに送った。しかし、アルスカはそれらを読まずに捨てた。もう二度と会うことのない人間に心を乱されたくないのだ。それでも、手紙を捨てた屑入れの中から嫌な気配がする気がして、アルスカを悩ませた。  フェクスは立ち上がれるようになると、医者の忠告を無視して歩き回った。アルスカはフェクスを見張るので大忙しだ。そうして、次第に屑入れに投げ捨てた紙切れのことなど、すっかり忘れてしまった。  さらに、アルスカが仕事に復帰すると、ますますケランのことは過去のものになっていった。  そうして日常を取り戻していったある日、アルスカが料理をしていたら、後ろからフェクスが抱きついてきた。アルスカが振り向くと、フェクスは舌を出してこう言った。 「お前に任せてたら、いつになるか分からない」  アルスカはフェクスの言わんとするところを理解した。フェクスはぐっと腰を押し付け、そのそそり立ったものを慰めてくれと言外に求めている。  アルスカは驚いた。 「……な!」 「だって、嫌なら、出てくだろ。でも、いてくれる。それが答えだ」  満足げなフェクスに、アルスカは反論の言葉を持たない。彼は口をぱくぱくと開いたり閉じたりしたあと、耳まで赤くなって、俯いた。 「……自分でも、どうかしてると思う」 「俺もだ。この国では同性愛者は破門だ」 「……」 「そうなっても、いいと思ってる」  そこまで言うと、フェクスはアルスカの顎を掴んで、強引に唇を重ねた。

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