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第8話
「わぁ、この時期の海もいいな」
「でしょう?人が少なくて結構いいのですよ」
梅雨が明けたばかりでまだ海開きを開かれていないこともあり、人がまばらであった。予想よりも穏やかな海はキラキラと太陽の光を反射して綺麗だなと雨霧は感じる。
潮風の冷たい風が頬を掠めていくが、嫌な気分にはならなかった。
「でも、まだ海の家は開いていませんね」
「そりゃ、まだ6月だよ」
「ちょっと残念です。海の家好きなので」
「じゃあ、夏にまた来よう」
「えっ、一緒に行ってくださるのですか?」
「うん、その時には別々のところで住んでるかもだけど。こうして一緒に出かけたいなって」
「とても嬉しいです。ありがとうございます」
「いいんだよ。そんなかしこまらなくていい。一緒にいたいからだし」
雨霧は恥ずかしがらずに自分の気持ちを晴明に伝える。
まだ部屋を見つけられていない。いつかは別々に暮らしていくのだろうが、そこで終わりにしたくはない。
まだ話していたいし、何が好きかも分からない。あの日拾ってくれた理由も聞いてみたい。雨霧の中で、出雲よりも晴明の存在が大きくなっていた。
だからこそ知りたい気持ちが日に日に強まっていく。秘めた感情に未だ名はなくとも芽生えてはいた。
「ねぇ、せっかくだし海に入ろうよ」
「えっ、でも……」
「足だけだから大丈夫だよ。おれは入るよ」
雨霧は靴と靴下を脱いで海の中へと足を踏み入れる。まだ時期が時期なので冷たくて気持ちがいい。
キラキラと太陽に照らされる水面と潮風の香り、楽しそうに鼻歌を歌いながら、足で水を蹴っている雨霧。
もうすぐ夏が訪れようとする光景に、晴明は眩しそうに目を細めた。
「私もせっかくだし入りましょうかね」
「本当?やった。入ろぜ」
晴明も靴と靴下を脱ぎ捨てて、海へと入っていく。季節外れの海は想像していたよりも温かなもので晴明は内心驚いた。
その心情に気づいた雨霧は子供のように楽しそうに笑う。
「結構気持ちいいだろ?おれも初めて入ったけどいいよな」
「そうですね。今の時期なら人も少ないし、遊び放題ですよ」
二人は暫くの間海の中を散歩した。波をかきわけるように歩けば子供時代を思い出す。もう子供というには大きすぎる身体だが、虹の端を追いかける気持ちで端まで歩いていく。お互い今だけは二人だけの世界だと信じていた。
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