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第11話
「にしても二人は何処で知り合ったの?」
「私が経営しているバーで雨霧さんがお客さんとしていらっしゃってくださったのがはじまりですよ。最近シェアハウスをしてて、とても楽しいですよ」
「へー、そうなんだね。いいなー」
今どきの子が入りそうなおしゃれなカフェの窓際に通された三人は、それぞれ飲み物を頼み話をしていた。
とは、いっても話しているのは出雲と晴明ばかりで雨霧は殆ど黙っていた。元恋人と会話をしたくはないが、好きな人と会話する姿は複雑で頼んだカフェオレのように混ざりあっている。
「にしても、翔平と暮らすの大変でしょ? 表情変わらないし、仕事ばかりしてるし」
まさか自分が話題になるとは思ってはおらず、身体が固まってしまう。しかも出雲は無意識なのか、意図的なのかは分からないがつまらない人みたいな言い方に心がズキリと傷んだ。
確かに雨霧は感情が豊かな方ではない。仕事に対して誇りがあるから、つい優先してしまう時はある。
だけど、それを今言う必要はあったのだろうか。別れた見せしめみたいなところがあるのではないのか。少なくとも雨霧はいい気分にはなれなかった。
これで晴明にも同意されたら泣きそうになるし、金だけ置いて逃げ出したくなる。晴明の反応を待つ時の雨霧は処刑を待つ囚人の気持ちであった。
「そんなことないですよ。一緒に料理を作ってくれますし、表情は分かりにくいかもしれませんが、感性は豊かで面白いです」
「えっ? そうなの?」
自分の意見に賛同してくれると思っていたのか、自分の知らない一面を知ったことに驚いたのか出雲は目を見開く。
雨霧は同意されなかったことに安堵と喜びに満ちていた。出雲と知り合った人は大体出雲の言葉に同意することが多かった。今のように話さない自分よりもよく喋る出雲の方が話しやすいというのもあるのだろう。それでも晴明は同意しなかった。それだけで報われた気持ちになれる。
「そろそろ私達は帰りますね。出雲さんありがとうございました」
「えー、もっと話したかったなー。残念」
「晩御飯の準備がありますので。また、今度話しましょう」
「いいよー! あっ、じゃあ、ライン交換しようよ。それならいつでも話せるでしょ?」
「いいですよ。交換しましょう」
席を立とうとする晴明を引き留める為かライン交換をする出雲を見て、いつもの光景だなと思う雨霧は思った。ここから仲良くなっていくのを何度見てきたことか。
自分の友人には必ず出雲がいた。そして、だんだんと出雲の方へと行ってしまうのだ。だから、今回は違ってほしいと願う。だって、好きな人を奪われたくはない。
ラインを交換し終えた二人を他人事のように眺めることしか出来なかった。お金を払いカフェから出れば、出雲と別れた。漸くまともに酸素を吸う事が出来る気がして軽いため息を吐いてしまう。
「もしかして、出雲さんと会いたくなかったのですか?」
「あっ、その、出雲は元恋人なんだ。まさか会うとは思わなくって」
雨霧の言葉に晴明は目を見開く。
「えっ、あの浮気をされた恋人さんですか?気軽に話していたので友達かと思っていました」
「いつもあんな感じなんだ。それに晴明に先入観与えたくなかったし。おれが話さなければいいかなって」
雨霧からしたらいつもの光景らしく諦めたような表情を見せている。その表情を見た後晴明は少し考えるそぶりを見せる。
「個人的には雨霧さんの方が好感持てますけどね。元とはいえ、目の前で恋人の悪口を言うのはあまり良くないと思いますし」
「ありがとう。そう言ってくれるだけで嬉しいよ」
晴明は気を遣って言ってくれただけかもしれないが、雨霧からしたら嬉しい言葉であった。
もしも出雲の方に目を向け始めていたら、立ち直れないかもしれない。これからも出雲と関わることが増えることだろう。あわよくば仲良くならずにいてくれたらいいのにと願う自分は醜いなと雨霧は思った。
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