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第3話
急いで荷物をまとめて病室を出たので日が落ちる前には自宅に帰ってこれた。
白く閉ざされた空間から解放された喜びに浸ろうとすると、視界の隅に嫌な存在がちらちら映る。
ナオトは新の部屋を興味深そうにみて、一つ一つの扉を開けて中を確認していた。病院以外の部屋をみるのが初めてだったのかもしれない。
電気の位置や家具などを重点的に観察していた。
自分以外の存在がこの部屋にいるのは不愉快で仕方がない。あてつけるように衣類の入ったボストンバックをナオトの背中に投げた。
ナオトは驚いたように振り返ったが足下のボストンバックをみると洗面所へ姿を消す。
あまりにも自然な流れに驚いた。てっきり新の元に持ってきて、さらに苛立たせると思っていたのにナオトは応用力が効くらしい。
これが槇の言っていた最新型なのか。
周りの条件、主人の反応をみて何億通りある行動を選択しベストを尽くす。
今までにない機能だ。これが世に広まればヒューマロイドは世間に認められるのではないか。
命令するまで同じことを繰り返すガラクタよりも、その場に合う行動を取捨選択してくれる方がこちらもありがたい。
いちいち命令するのは面倒だ。特に新の場合は。
でも、秘密裏とはどういう意味だろうか。
公にしていないということは何か嫌な予感がする。
「他にすることはあるか?」
洗面所から戻ってきたナオトはソファに寝転んでいる新に仕事を乞う。気軽な話し言葉に驚いてナオトを見返した。ヒューマロイドは敬語で話すようプログラミングされている。
病院のときは敬語を使っていたのに、二人きりになった途端タメ口をきかれる。俺が舐められてるってことなのか。
ナオトは新に構わず勝手に掃除を始めた。
しばらく家を空けていたので部屋はわずかに汚れている。クローゼットから掃除機やはたきを出して右往左往し始める。
新はソファに寝そべったまま様子を伺った。
過剰に構われることも無視をされることなく一定の距離を保つ。まるで新の微妙な空気を察しているようだ。
ヒューマロイドらしくないヒューマロイド。
さっさと槇に返したいが、一度引き受けたからには(不本意だが)槇の口八兆手八丁にまた丸め込まれてしまう気がした。
けれど三ヶ月我慢すれば期限は切れるのだ。
セイのようにいちいち命令しなくても勝手に動いてくれる。
掃除もしてくれるし家政婦が来たと思えばいい。
あれこれと都合のいい方へと考えて気持ちを落ち着かせた。
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