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第4話

 新は日がな一日をソファの上で過ごした。  テレビを付ける気にも音楽を流す気にもなれず、無音の部屋にただ閉じ籠もっている。  ナオトがピカピカに磨いてくれたフローリングも時間が経つにつれて生気をなくしていくようにみえた。  「今日は天気がいいらしいな」  窓の外を眺めていたナオトは新に問いかける。  空は南国の海のように青く澄んでいて雲一つない快晴。窓を閉め切っていても子供たちが公園で遊んでいる声が届いてくる。  新の住んでいるマンションは病院の敷地内にあるので嫌でも白い四角い建物が目に入る。  新はジェスチャーでカーテンを閉めるように命令した。ナオトは少し寂しそうな表情をして光を閉じてくれる。  「空気の入れ替えをするぞ」  代わりに窓を少しだけ開けるとひんやりとした空気が部屋の中に入り込んできた。すぐそこに秋が迫ってきている風は部屋の隅々まで行き渡る。  「調子はどうだ?」  無視。  新は雑誌を読むふりをしてナオトの質問には答えない。調子がよかったら今頃おまえに怒鳴り散らしてるよ。  ナオトはまた寂しそうな表情をつくり、部屋の奥へと引っ込んでいった。  主人に答えてもらえなかったら悲しい顔をするようにプログラミングされているのだろう。  けれどよくよく観察すると表情筋の使い方が違い「悲しい」「寂しい」といくつかパターンがあるようだった。  そんなに細かく観察していた自分に嫌気が差し、紙屑をナオトに投げつけた。  軽い球はナオトの背中に当たると音もなく床に転がった。ナオトは気が付かない。  今度は雑誌を投げた。ナオトの後頭部に直撃する。我ながら酷いことをしていると思う。  これで相手が人間なら虐待もいいところだ。  ナオトがヒューマロイドだからグレーゾーンになるだけで、褒められる行動でもない。  感情を言葉にできない分、新は行動で示すようになった。そのほとんどが怒りで誰かにものをぶつけたくて仕方がない暴力的なもので、どうしてもおさえられない。  きっと、俺がこんなんだから誰も来ない。  ナオトは雑誌を拾うと壁にある雑誌ラックに戻した。ヒューマロイドは人間に危害を加えないように制限されているからナオトは嘆きもしないし怒りもしない。  ただそこに立っているだけ。だからストレスをぶつけるのにはいい相手なのだが、あまりにも無反応だとこちらの良心が痛んでくる。  新は背を向けて目を瞑った。  あらかた感情を吐き出したのですっきりしていると言えなくもない。  「寝るのか」  ナオトの声に小さく頷く。寝るつもりらなかったが、だからといってやることもない。でもなかなか眠気はやってこず、何度か寝返りを打った。  「おやすみ」  パチっと乾いた音が聞こえると急激に眠気が襲ってきて新の意識は遠のいていった。

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