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第8話

 久々の発声練習は酷いものだった。  高音になるにつれて声は枯れていき、とても聴けるものではなかった。でも一つだけ発見はあった。  「低音はよく出ているな」  壁側で待機していたナオトの言葉に新も頷いた。自分でも驚いている。  以前は高音を出す方が得意だったし、天使の歌声というイメージにぴったりだった。でも声が枯れて音域が狭くなったが、低音だけみると前より低く出ている。声量も問題ない。  「そうなると曲事態のキーを下げれば問題ないな」  「そうだな」  子供たちの待っているドラバトの曲『yell』のキーを下げ、頭から歌い出した。  元々の曲のイメージが強かったが練習を重ねると曲との按配が良くなっていった。この声でも大丈夫。  でも世間は、子供たちは受け入れてくれるだろうか。それが不安で仕方がなかった。  家に帰っても練習をして、外でも発声練習をして何とか不安を拭おうとした。  けれど失望した眼差しを向けられたときが蘇り、傷はゆっくりと膿んでくる。  新の不安を察するとナオトは傍に付き添ってくれた。  「大丈夫だ。きっと今の新でも子供たちは喜んでくれるよ」  ナオトが言うと本当にそうなる気がする。  乗せられてるとわかっているけど、ナオトに励まされるとより歌に力が入った。  ライブ当日。  舞台袖、といっても廊下で待機していた新は緊張のあまり放心状態だった。  たくさん練習した。  ナオトも褒めてくれた。  だから大丈夫と言い聞かせても、本当に?と返ってくる。  人前で歌うのが久しぶりということも相まって緊張感は増す。  「柄にもなく緊張してるのか?」  「うるさいな。この感覚が久しぶりだと思ってただけだ」  「ならいいんだ。551のシンはそうでなくちゃ」  「俺はトップスターだ。こんな小さな箱、大したことないね」  口ではそう言い切れるけど内心は怖くて仕方がなかった。  「新ならできるよ」  確信にも似た言葉。それを聞くとすっと心が軽くなる。  「新さん。お願いします」  係りの人に背を押され教室に足を踏み入れた。教室は手作りの装飾で溢れている。  そこここから人の温かみが伝わってくるようだった。  小さな舞台。  観客は子供と保護者と関係者しかいない。  武道館でも歌ったことのある新には狭く感じる。でも、一人一人の顔がきちんとみれて、誰もが自分を待ち望んでいることがわかる。端から端まで見渡し、新はマイクを握った。

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