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第9話
ライブは無事に成功した。
子供たちは終始喜んでくれて、最後には一緒に歌ってくれていた。その心からの笑顔をみると以前にはなかった高揚感が芽生えている。
前は歌うことに戸惑いはなかった。
新が歌えば聴衆は泣き、笑い、そして喜んでもらえ、それを当然だと思っていた。
美声を失い自分の存在意義を失った。
堅く積み重なっていた足場が崩れ、歌うことが怖くなり、誰も見舞いに来ない病室は新の立ち位置を表しているようで、自分はその程度の存在だと閉じこもった。
でも殻に閉じこもっていた新に光陰が刺した。
それは乱暴に殻を壊していき、一筋だった光が目を覆いたくなるような輝きを与えてくれる。
「ライブよかったな」
ナオトの手が新の頭を撫でてくれる。
暖かい温もりは甘く新の身体に染み込んでくる。
「子供たちもあんなに喜んでくれたし、もう過去に捕らわれるなよ」
「うるさいな。わかってるよ」
糸を引っ張られたみたいにぴんと背筋が伸びた。褒めてもらえて嬉しいのに、素直に喜べない自分がいる。
どうしてこんなにくすぐったいのだろう。
「やっぱり新の歌はいいな」
「当然だろ」
照れくさくてつい語気が強くなる。ナオトは笑ってくれた。
「そうやって偉そうにしてろよ。引きこもってるのはあんたらしくない」
もう怒鳴られるのは勘弁だし、と付け加えられる。そしてまたナオトは笑った。
それを見るとどうしようもなく胸が騒いだ。
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