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第14話

 「そういうことだから」と一方的に話しを切られ、新は言葉を失う。  槇は新の反応などお構いなしに、「体調はどう?」と話題を変えるので逆に不自然だ。  「ちょっと待てよ。今のはどういう意味だ?」  「何回も言わないとわからないの? だから試用期間はもう終わり。ナオトくんは本日付けで返してもらうよ」  喉の調子は大丈夫そうだね、と間延びした槇の声が響く。なんだそれ。いきなり何言ってるんだよ。  今朝部屋出るときナオトはいつも通りだった。変わった様子はない。  そんなの当たり前だ。  ヒューマロイドはいついかなるときでも命令に従うのだ。事前に話を聞いていたとしても表面にはおくびにも出さない。  鈍い頭のネジを力任せで回して、どうにか言葉を並べる。  「三ヶ月までにはまだ十二日あるぞ」  「ずいぶん生真面目に数えてたんだね」  「うるせぇ。だからまだナオトの主人は俺だ」  言い訳のきかない子供を前に困っているような顔で槇は溜息を吐いた。  「アクシデントがあったの。まだ彼は未完成品だから、色々不備もあったし。ほら前に記憶メディアがおかしいんじゃないかって騒 いでたでしょ」  「明らかに様子がおかしかったし」  「そこから色々問題点が見つかったの。あーやっぱりきみに任せて良かったよ。改良するところも検討がついたし」  槇は新をみずに診断書を書き連ねていく。そのペン先がわずかに揺れ、瞬きする回数が多い。  いつもとわずかに違う槇に訝しげな視線を向ける。  「ほら、次の患者さんが待ってるから早く出て行って」  「まだ話は終わってない。ナオトは俺の元に戻ってくるのか?」  「あのねぇ」  険を含む声音に身構える。  「ナオトくんはセラピー用のヒューマロイドなんだ。まだ試作段階だけど、いずれ世界中に広まる存在の原石なの。それを君の勝手で独り占めできるもんじゃない」  「でも、俺は」  ーー俺は、何を言いたい?  こんないきなり離れなきゃいけないなんて嫌だ。   ーーどうして?   ナオトと一緒にいたい。  ーーなぜ?  それは、ナオトのことをーー  「もしかして好きになっちゃった?」  「悪い冗談は辞めろ」  「愛情を向けることは間違いじゃない。でもナオトくんはヒューマロイドだよ。いわば道具。道具を愛しても仕方がないよ」  槇の言葉に何も返せなかった。槇の言うことは正しい。理解もしている。けれど反駁したくなる衝動はなんでだろう。  「帰る前にナオトに会えるか?」  「彼はもうここにはいないよ。別の場所に移ってもらった。きみは歌えるようになったんだから、セラピーなんて必要ないでしょ」  槇の言葉を力なく返し、新は診察室を出て行った。

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