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第19話

 「好きにしろとは言ったけど」  新はベッドに深く身体を預け、直澄を睨んだ。指一つ動かせないほど無理強いしろとは言っていない。  「ごめんって。だから甲斐甲斐しく世話してるだろ」  「当然のことだし」  「はいはい」  生ぬるいタオルで身体を清めてくれる。お互いの体液を絞り出すように限界近くまで求めたので、身体中ベトベトしていた。  こうやって世話されていると不思議だ。  新はヒューマロイドで直澄は人間。  本来ならば新が世話をしなければならない側なのに、今の役割も悪くないと思える。  「なに嬉しそうな顔してんだよ」  「別に!」  「まぁいいけど。ほら、端に詰めて」  タオルを洗面器に入れた直澄は新の横に滑り込んできた。一人分のベッドに二人はきつい。  でも理由もなく肌を密着できるので、そう悪いことばかりではない。  新の髪を撫でながら直澄は何度もキスをした。子供のような戯れはくすぐったい。  「一般的には報じられていないけど、脳の機械化の研究が進んでいるんだ」  「機械化って」  「簡単に言えば心臓のペースメーカーみたいに、足りない役割を補ってくれる機械だ」  ピロートークにしては重大な話に新は耳をすませる。  「豚にテストして異常はなかった。でも人への実験はまだされていない。だから俺は試そうと思う」  直澄の力強い瞳は天井に向かっている。まっすぐ未来へと向かっている。  「このまま心が死んでいくのを待っているのは嫌なんだ。例えどんな結果になっても受け入れる覚悟もできてる」  この答えを出すまでに直澄はどれだけ悩んだのだろう。声が震えないように力んでいるせいで、本当は怖いとわかってしまう。  体温も下がっている。新は直澄の肩に頭を預けた。  「直澄がそうするなら俺は支えるよ」  「辛い結果になっても?」  「辛いと思える分、俺は幸せだよ。裏を返せば直澄を好きって気持ちだから。他のヒューマロイドにはない大切な想いだ」  「ありがとう」  直澄は新の手を強く握り、新もそれに応えた。爪が食い込むほどの強さに、直澄の覚悟の強さを感じられた。

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