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第4話
彼は外したボタンを片手で留めようとしていたが、上手くいかなかった。それでも雅也と繋いだ手は離そうとはしなかった。雅也はその様子が可笑しくなり
「ボタンを留めたらまた繋いでいいから、両手でしたら」
と雅也は言うと、彼は、はい、と言って手を離してボタンを留めた。
「あの、俺、桜川那央といいます。大学生なんですが、今は休学中です」
「俺は会社員の田辺雅也」
那央はボタンを留め終わったが、自分から雅也の手を繋いでいいのか迷っていた。雅也は察して那央の手を掴んだ。那央は明らかに安心した表情を見せた。
「すいません…雅也さんの手、なんか安心します」
雅也は初対面の男にいきなり下の名前を呼ばれたことにドキッとした。しかも手を繋ぎながら、やや上目遣いで言われたから尚更だった。
「那央君は何処かに行こうとしてたの?それとも帰る途中だった?」
雅也も下の名前で呼ぶことにした。
「えっと…帰る途中なんです。終点まで」
「終点までか…まだ半分以上あるね。じゃあさ、行きはどうしたの?大丈夫だった?」
「行きは時間に余裕があったから、各駅停車に乗って、いつでも降りられると思ったら発作は出なかったんですが、帰りはその色々あって、慌てて乗ったら急行で、途中で停まらないと思ったらパニックになってしまって」
雅也は色々あったというのは、色恋沙汰だったんだろうとまた想像してしまった。
「じゃあ、帰りも今から各駅停車に乗ろうか。終点まで付き合うよ」
「えっ⁈…いいんですか?ほんとに?」
那央は心底ホッとした表情で、何度もお礼を言った。雅也にしても鞄の情報が聞きたかった。そして入構してきた各駅停車に乗ろうと立ち上がると、さっき心配してくれた駅員がこっちに向かって手を振ってくれた。
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