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第12話

 雅也は新聞配達員の階段の昇り降りの音で目が覚めた。左腕には静かに寝息をたてている那央がいる。雅也はスマホを引き寄せて時間を見た。5時過ぎだった。ポジションを決めて寝ついたのは日付けが変わった頃だった。那央は夜中に苦しくて起きた様子もなく、今のところ5時間近く起きることなく寝られている。雅也はできるだけ長く寝かしてやりたかった。スマホを置いて那央の顔を見ていると、今までと違った感情が自分の中にあるのを認めざるを得なかった。  7時過ぎに那央が目を覚ました。 「えっ⁈…今何時?」  雅也はこれ以上ないくらいの優しい顔で 「よく寝たね。7時過ぎだよ」  那央は瞬きもせず雅也の顔を見た。そして雅也の胸元に顔を埋めた。 「ありがとう…雅也さん。夜が怖くなかったよ」 「なぁ、那央…ルームシェアしようか」  雅也は那央の答えを待つことなく、優しく抱きしめた。    那央は朝食作りで楽しそうに台所に立っていた。雅也はその様子を見ていた。何か手伝うと言っても、いいから座っててと言われてしまった。  ご飯と卵を落とした味噌汁と那央が漬けた胡瓜の浅漬けが朝食だった。 「朝から味噌汁なんて、久しぶりだよ」 「雅也さん…味噌汁くらいこれから毎日作るよ」 「うん…そうだな。ありがとう」  雅也からのルームシェアの提案に、那央は涙を見せながら、よろしくお願いしますと言った。が、現実的に考えると、那央の環境を変えるのは、今の体調からしても好ましい選択ではない。とは言え、ここに雅也が来るのも無理ではないが、手狭感がある。 「雅也さん、たぶんなんだけど…お隣さん来月引っ越しするみたいなんだ。この間、大家さんが家賃がどうのこうの言ってたから」 「えっ?ほんと?…じゃあ俺がその後、隣に引っ越したら、ほぼ一緒に生活できるよね?ご飯食べたら、大家さんに確認しようよ」 「うん。嬉しい」  那央は食器を台所に持っていった後、壁に向かってしゃがみ込んだ。 「どうした?…苦しいの?」  雅也が心配して声をかけた。 「ごめん…違う。雅也さんの鞄にお礼を言ったんだよ」  那央がしゃがみ込んだ前に、雅也の黒の鞄が置いてあった。雅也は那央の髪をくしゃっとした。

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