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第14話

 引っ越しをして一週間が過ぎた頃、お互いの生活時間もわかり、心地よい暮らしができていた。とは言え、一緒に手を繋いで寝ていても、毎日ではないが那央は夜に少し息苦しくなることがあった。が、那央は苦しくなっても雅也さんが傍にいるからと怖くないと平気そうに言った。  その日もいつもと同じポジションで、手を繋いで寝ていると那央が話し出した。 「雅也さんとこうして一緒に手を繋いで寝てるでしょ…それでも発作の奴はくるんだよね。でもね、俺、発作の奴に来るなら来てみろ、俺には雅也さんがいるんだから、お前なんか怖くないぞって言うとね、ここ最近は悪さもしないで消えるんだよ」 「那央も発作の野郎と戦ってるんだな」 「そうだよ。雅也さんがいてくれるから、怖い物なしだよ」  発作を擬人化して話す那央は子供のようだった。このまま発作がなくなっていけばいいのに、と雅也は強く思った。    一緒に生活をしてひと月が過ぎようとしていた。残業で少し帰りが遅くなった雅也は、空腹でお腹を摩りながら、ただいま、と玄関の扉を開けた。 「おかえりなさい。雅也さん」  那央の声が、いつもより弾んでいた。雅也は何かいいことがあったんだなと察した。 「あのね、雅也さん…俺もう大丈夫だって。林川先生がね…卒業してもいいよって」  靴を脱いで振り返った雅也に那央は飛びついてきた。今日は月に一度の心療内科の林川クリニックに行く日だった。 「林川先生がね、最近は安定剤も飲まなくてもよさそうだし、夜もちゃんと眠れているし、何よりね表情がよくなったって」  那央は嬉しくてたまらない様子だった。このことを早く雅也に伝えたくて、帰りを待ち侘びている那央の様子が、雅也には手に取るようわかった。 「完璧に治ってないかもしれないけど、一旦今日で診察を終了しましょうだって。卒業ですよって」 「そうなんだ、那央…あぁよかった。頑張ったもんな」  雅也は那央を力いっぱい抱きしめた。そして自分で思うよりも早く那央の唇にキスをしていた。那央もじっと雅也のキスを受け入れていた。数秒後、雅也ははっと我に返り、ごめんと言った。 「ううん…雅也さん。ありがとう」  那央は雅也に抱きついた。雅也も那央を離さなかった。

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